第一回研究会 記録誌


 
ホスピタルマネジメント研究会第1回研究会記録誌 1997年5月24日

●発足のご挨拶
代表幹事 医療法人真正会事務局長 長谷川 均氏

 医療の場にも「規制緩和」の波が押し寄せています。そうした時代に医療はどうなっていくのか……これは誰にも予想がつかない問題と思います。ただ一つだけわかっているのは、今までのやり方では絶対に通用しないということです。これからの病院はマネジメントの卓越性が勝負になってくるでしょう。
 新しいマネジメントの手法はきっとあります。今回発足したホスピタルマネジメント研究会は、患者さんを主体にした新しいマネジメントを探り、それを担う若い世代を育成する会です。まず今年1年は、「患者さんの満足度」をテーマにいろいろな調査、研究発表を行っていきたいと思います。
 そしてホスピタルマネジメント研究会では、会員の皆様の情報交換、情報共有のためにホームページを開設する予定です。この会は皆さんが“主役”の会です。積極的に参加し、活発にディスカッションしていただきたいと思います。
 
 

〔講演・〕
『国民医療費の現状と将来』
一橋大学経済学部教授 鴇田忠彦氏

〔講演・〕
『患者満足度を実践して』
(医財)神尾記念病院情報管理室研究員 木村憲洋氏
 
 

次代の病院経営を担う若い世代の集まり、ホスピタルマネジメント研究会・第1回勉強会開く

 次代の病院経営を担う若い世代が集まって、互いに勉強することを目的とする新たな団体、「ホスピタルマネジメント研究会」がこのほど発足、さる5月24日(土)、第1回の勉強会を開いた。講演は、一橋大学経済学部教授・鴇田忠彦氏の「国民医療費の現状と将来」、および(医財)神尾記念病院情報管理室研究員・木村憲洋氏の「患者満足度を実践して」の2題。取材したので大略を紹介する。
 
 

〔講演・〕
『国民医療費の現状と将来』
 一橋大学経済学部教授 鴇田忠彦氏

1.国民医療費の将来推計

 まず鴇田教授は「国民医療費の将来推計」について述べた。「国民医療費」とは、「診療報酬の年間合計」をさして厚生省がつくった言葉で、最近は「診療報酬の年間合計」を国民所得の伸びの枠内にとどめようという、政策的な背景をもつ概念である。現在の国民医療費は約25兆円強。ただし、ここでの医療費は薬局での薬剤購入費や正常分娩での医療費などは除いているので、本来の医療費としては30兆円ぐらいだという議論もある。いずれにせよ 500兆円近いGDP(国内総生産)のうち、我々は医療費に30兆円近く使っているといえよう。この国民医療費が将来どうなるのか、2025年まで推計が試みられているという。
 国民医療費の将来推計は、将来の推計人口をもとに割り出されるが、今年度、すでに昨年より生産年齢(15〜64歳)人口が減少したというデータが発表されている。出生率がこのまま 1.4程度で推移していくと、2025年頃には高齢化率が30%近くまで上がってしまう。現役世代が急速に減少し、数年後には日本の人口自体が減っていく。来世紀の終わりには、日本の人口は 6,000万人ぐらいになるであろう。この新しい人口推計に準拠して国民医療費の予測をしてみると、そこから読み取れることは、以下のようになるという。
 国民医療費は2025年には約50兆円に上ると推計される。現在、GDP比6%で先進諸国の中でも異例に低いが、将来的には我が国の医療費比率は決して低くなくなる。
 今まで日本は対GDPで医療費比率が低く、海外の医療経済学者の間で日本の制度は素晴らしい、低いコストで高い健康指標を達成しているといわれていた。総体的に日本の医療制度はうまく機能していたが、これからは必ずしもそうはいかない。ほかの国以上に医療費がアップし、しかもそれは低い経済成長率のなかで起こってくる。
 「世界にまれな高齢化社会の中で、国民の医療費負担は、想像以上に、しかも急速に重くなるといえましょう」と、同氏は述べた。

2.医療費の負担

 次に鴇田教授は「そうした医療費を誰が負担するのか……この問題を考えてみたいと思う」と述べ、医療費の負担について述べた。日本の医療制度は、医療保険を通じての世代間の相互扶助といえる。しかし、現在の日本にとって最大の問題は少子化。最近の 1.4程度の出生率で、かつて年間 200万人生まれた子供が、 120万人にまで落ち込んでいる。この少子化によって現在の医療制度を維持することが非常に困難になっている。
  15歳から64歳までの現役世代の医療費の負担はどれくらいになるのか。ここでは65歳以上で所得のある人の一般税からの医療費繰り入れ分は無視し、65歳以上世代の医療費の全額を現役世代で負担するものとして試算してみると、以下のような結果になる。
  現役世代が負担する医療費は現在年間約23万円、2025年には全体で約69万円で、現在の約3倍となる。これは15歳から64歳の現役世代全員が働いたとしての数値であるから、実質的にはもっと負担増になる。このことが一番のポイントになる。今回、老人医療費の10%の定率性の導入が見送られたわけだが、そのことは果たして好ましかったのか。この側面から考えてみて欲しい。将来的にはこの医療制度自体が破綻してしまう可能性もある。すでに組合健保が破産状態ということが、あちらこちらで起こっているのが、その証左である。昨年の組合健保の赤字は数千億円に達していて、1年以内に1兆円を超えるだろうといわれている。負担の公平ということを考えざるを得ない事態に直面していると考えられる。
 同氏は、日本の医療制度はアメリカやイギリスに比べて決して悪くないと思っている、という。アメリカの場合には、政府の公的な保険は高齢者と生活困窮者のための保険があるだけで、それ以外はプライベートな保険でカバーされている。勤めている人は、会社がその保険料を負担しているわけだ。アメリカの最大の問題は、周知のように一方で高い医療水準があり、他方で国民の15%以上がまったく保険に入っていない状態で、また同じくらいの割合の人が十分な保険に入っていないことである。
 また、イギリスのように国税で医療費をみるという場合には、それに伴うさまざまな問題が起きてくる。少なくとも日本は、かつてのようにお金がないから医療機関にかかれないという状態は脱している。こういう状況は、できれば将来的に維持するべきであるが、高齢化、少子化、経済の低成長率という現実からみると、その存続は無理ではないかという危惧が持たれるわけである。
 ところで、老人医療というのは保険制度になじまないのではないか。若い人はほとんど病気をしなくて、病気をするのは年寄りになってからだ。そうだとすると、社会保険制度は現役世代だけにして、老人医療については別途扱いにする、たとえば政府が負担するなどの考え方、議論もある。
 イギリスの医療は、最近かなり民営化、規制緩和がなされているが、概して政府が一般税で補填するということになっている。それに対して日本の場合は社会保険税でそれをまかなうという大きな仕組みの違いがあるわけだが、いずれにしても負担をするのは現役世代ということには変わりはない。社会保険税で拠出するのか、一般税でするのか、現役世代にすれば、社会保険税は定率性で、一般税は累進性だという差異があり、そういう点で若干所得によって払うべきコストは違ってくるが……。ただ、日本でいま老人医療を社会保険から切り離して政府が一般税から支出することになると、おそらく赤字国債のように際限なく医療費がふくらんでいくという結果になると予想されるのである。

3.国民健康保険でみた都道府県別の医療費

 鴇田教授は都道府県別の医療費について言及した。
 国民健康保険のデータを使って都道府県別に医療費をみてみると、かなりのバラツキがみられる。いわゆる“西高東低”といわれているように、関西以西の1人当たりの医療費は高い。それは、年齢層、外来、入院とも同じ傾向にある。それに対して、東では比較的低い(北海道は気候条件等により例外)。
 なかでも、高齢者の入院医療費の上位5県をとってみると「北海道」「高知」「福岡」「熊本」「長崎」となる。下位5県は「長野」「山形」「千葉」「栃木」「宮城」である。それぞれの平均値をとって比較してみると、およそ 2.1倍という開きが出てくる。このような医療費の差は、いったいどういう要素で説明できるだろうか。それは、「都道府県別1人当たり所得」、「人口 1,000人当たり医師数」、「人口当たりCTスキャナー」、「集中治療室及び肝動脈治療室の病床数」、「60代人口の対70歳未満人口比率」、「医療機関のベッド総数」、「特別養護老人ホームのベッド数」などの要素から説明できることが明らかになってくる。
 特徴的なことは、1人当たりの医療費の高さは、1人当たりのベッド数の差にもっとも影響されているということである。ということは、医療費が高い地域の患者さんは、そうでないところの地域の患者さんよりも、本当の意味で質の高い医療を受けているといえるのかどうか、ということが疑問になってくる。
 逆にいえば、医療費の低い県の患者さんが、医療の質に対して特に不満・問題点を持っていないとしたら、医療費の高い県のその費用は果たして適切か、という問題が投げかけられるわけである。
 
 
 

〔講演・〕
『実践報告 ・患者満足度を実践して・』
 (医財)神尾記念病院情報管理室研究員 木村憲洋氏

患者中心の医療をめざすために患者さん対象アンケートを実施

 神尾記念病院における医療理念のうち、もっとも重視していることは「すべての患者さんに満足感・信頼感・安心感を持っていただく」ということと「耳鼻科における包括医療の展開」の2点である。特に「患者満足度」、つまり患者さん中心の医療を実践していくためには何をやるべきか。その展開の1つとして平成元年より「患者さんアンケート」を実施してきた。当初は入院患者さんが退院するときに限って、記述式でアンケートをとってきたが、私が病院勤務を始めた平成6年にアンケート結果を数値化してフィードバックしたいという要請があり、フィードバックを前提にした5段階評価のアンケート用紙を2種類(初診時および入院患者さん退院時)を作成し、アンケートを実施している。アンケート内容の中で核となるのは、「患者さんに十分な説明を行っているか」という問いかけ。受付、看護婦、医師などがすべての部門にわたって同様の項目を設定している。
 こうしたアンケートは、おおむね好評価を得られるのが通例なので、結果のフィードバックについては、最高評価の5点のみを集計し、月に1回『マンスリーレポート』という形で医局会、運営委員会を通じて各部署に通達している。レポートは過去数カ月の推移がわかるように編集し、分析・反省材料としている。
 また新患アンケートは、医師の印を押した用紙を診療の際に配布しているので、担当ドクターが誰かわかるようになっている。そこで、医師個人の評価も集計できるようになっており、「訴えを良く聞いてくれる」などの項目に対する評価が、医師ごとにかなり明確になる。結果はもちろん各医師にフィードバックしているが、なかなか改善されないのが悩みである。他の病院ではもっとうまく改善につなげることができるのではないかと思うので、これはぜひ実行していただきたい。
 やはり、こうしたアンケートで一番問題になるのは、集計とフィードバックの方法である。どうしたら業務改善に結びつくか、今後も試行錯誤を重ねていきたいと考えている。

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