第一〇回研究会 記録誌


 
ホスピタルマネジメント研究会第10回勉強会記録誌 1998年9月12日
(地方例会 テルモ病院経営セミナー/金沢市)

〔特別講演〕
『転換期を迎えての医療機関の生き残り策を探る』
〜公的介護保険導入や規制緩和の時代を控えて〜
国際医療福祉大学医療福祉学部学部長 紀伊國献三氏

〔シンポジウム/これからの病院経営〕
座長:神野正博氏(董仙会恵寿総合病院理事長)
シンポジスト
  :長谷川 均氏(医療法人真正会事務局長)
   本郷正樹氏(喜峰会東海記念病院企画人事部長)
   谷田一久氏(広島国際大学医療経営学科助教授)
   冨井淑夫氏(日本医療企画企画調査室室長)
 
 

〔特別講演〕
『転換期を迎えての医療機関の生き残り策を探る』
〜公的介護保険導入や規制緩和の時代を控えて〜
国際医療福祉大学医療福祉学部学部長 紀伊國献三氏

不確定要素が多い医療環境

 医療の環境変化は不確定要素が多く、これから将来に向かいどうなっていくか不透明ですが、医療機関にとって大きな転換期を迎えていることはたしかです。そして、最も悪いときのことを想定し、最も危険な状態でも対応できる方策を考えていくことが、医療機関が生き残っていくためには必要だと思います。
 不確定要素として、まず、介護保険があります。2000年からの実施が決まりましたが、果たして月額2500円という保険料で、どの程度の給付が可能か、介護報酬がどの程度に決まるのかなど、先行きはまだ分かりません。次に、現在過熱状態になっているケアマネジャーですが、それがどういう役割を果たし、それに対して報酬はどうなるのか、どれぐらいの権限があるのか、ということについては、これまた分かっていません。
 それから、医療保険がどうなっていくのか、これも不透明です。医療費の将来的な増加に対して、介護に別個の財源を設けるという目的で介護保険を作りましたが、医療保険の先行きは見えていません。ですから、われわれ医療に携わる者として、医療保険がどのように変化していくのかを、見極めていく必要があります。
 今日、医療保険の保険料が高いといわれていますが、政管健保の保険料の料率は、医療保険は1000分の85で、厚生年金は1000分の 173です。国民の考えとして、年金は払っても、医療保険は払いたくないというのが本音のようです。つまり、国民の意識の中に、もしかしたら病気にならないかもしれないが、確実に年をとるから年金はもらいたいという気持ちがあり、それが圧力になっているのかもしれません。
  それで、厚生省や関係団体から高齢者医療保険の別立て案というものが出てきましたが、介護保険や高齢者の出来高払い、定額性の問題なども関係して、医療団体の圧力、薬業界の圧力があり、まだ確定されていません。このように、さまざまな圧力によって医療保険を含む環境は変化しています。今後、医療機関が生き残るためには、これらの変化にどう対応していくかが課題でしょう。

これからの病院のあり方

 次に、病院のこれからについて考えてみましょう。病院とは、急性・慢性を問わず、ケアに手が掛かる患者さんを収容して医療を行う機能があると考えられています。しかし、有床診療所もあり、病院と診療所の区別はほとんどなくなってきているのが現状です。患者さんが体の具合が悪くなった場合に、どちらかを選択しなければ、という意識はないと思います。かかりつけ医師がいればそちらを選択するでしょう。
 そう考えますと、これからの病院およびその外来はどうあるべきでしょうか。当然そこには、一般外来でいくのか、専門紹介外来にしていくのかという選択も必要になります。政府が、病院は入院が中心であり、地域医療支援病院のように紹介率80%があるべき姿と考えていることもあって、医療の流れは、プライマリ・ケアから紹介で専門的外来へ、という方向にいくように思われます。そのため、今後病院としては、プライマリ・ケア部分をサテライトのような形にすることも考えるべきです。
 そもそも病院は、複数技術の組織的協力体制が整っており、基本的な診療技術だけでなく、医師と看護婦間の組織的な協力体制ができているのが本来の姿である、とわれわれは考えています。医師中心の現状の病院体制をこのような形に変えていくことは、病院経営者にとって大きなチャレンジといえるでしょう。しかし、これからの病院にとって、そうした改革は必要なことだと思います。
 協力体制によって、栄養士の指導料が付き、薬剤師の指導料が付くというように、全体の意識も変わってきます。病院経営者としては、このような全体的な変化に対応し、地域の中で足りないものは何かを捉えて、介護力強化病院や療養型病床群などの選択肢を含め、病院の進む道を探すことも必要です。
 いうまでもないことですが、病院にとっては患者さんが最も大切な存在であり、患者さんのケアが病院の重要な役割です。そのため、患者さんがどのような状態で病院に来て、われわれがどのように対応し、どう退院するのかを分かっておく必要があります。そのことが、ケアの必要度を判断する視点になりますし、疾患を急性でも慢性でもない亜急性という捉え方ができることにつながってくると思います。
 これからの病院経営は、介護を視野に入れていくことが大切になるでしょう。介護保険を意識した運営も必要ですが、医療保険と介護保険の中間的ケアが必要になってくると思います。病院が地域医療を考えたとき、医療ばかりでなく、地域の障害者やその他のケアを必要と考えている人のニーズに合わせ、対応していくことが重要だと思います。

今後の医療経営と生き残り策について

 次に、医療経営がこれからどうなっていくかについて、各要素を取り上げて話をします。最近、規制緩和が1つのトレンドになっていますが、医療に関しては規制緩和は進んでいません。われわれとしては、規制緩和を進めていただきたいが、それがだめだとしたら、保険外医療に重点を置くことにならざるを得ません。
 国民は、保険医療の将来は拡大はないと考えており、これから先の保険医療はますます厳しくなるでしょう。すると、介護保険に期待をかけたくなりますが、不確定要素が多く、どのようなサービスなら患者さんに払っていただけるのかが問題になってきます。
 保険外医療は、病院にとっては大きなメリットがあります。特定療養費はいろいろなところに適用できます。現在、大きな課題となっているのが、医師の特定療養費が認められるかどうかです。もう1つの課題は2対1看護。2対1でなければ看護補助者、介護者を付けると費用が認められますが、2対1だと認められません。このような論理はよく理解できないのですが、医療サービスを一定水準以上良くした場合は、その分の負担は患者さんがすべきだという考えのため、そのような方向でいくでしょう。
 また、世論の反発もあることから、薬価差益での収入増は難しくなります。差益での収入は、患者さんから技術料としていただくほうが適当ということで、薬価差益は徐々になくなってくるでしょう。
 収益事業については、特別医療法人がひとつの突破口になるでしょう。それをどれくらいの病院でできるのか、税制上の特定医療法人との棲み分けはいったいどうなるのかが注目されます。また、厚生省には特別医療法人の税制について考えていただかなければなりません。税制はいったいどうなるのか。現在の税制は、一部の方が恩恵を受ける形になっいるため、全般に公平になるようにすることが大事だと思います。
 最後に、カスタマーズ・サティスファクション(患者さんの満足度)について話をします。カスタマーズ・サティスファクションとは、患者さんが病院に対して、例えば、院内が清潔であったか、医師や看護婦の対応、技術はどうであったか、ということを評価することですが、この評価がなかなか難しいといえます。
 病院に来られた患者さんに、病院側が「病院の印象はどうでしたか」と質問しますと、5段階評価でしたら、おおよその方が3か4をつけます。これが当たり前ですね。それが、カスタマーズ・サティスファクションだといっても、あまりにも漠然とし過ぎていて信憑性がありません。ですから私は、何年か前の病院管理学会でも発表したのですが、うちの病院としてはこれをぜひともやりたい、それがどの程度達成されているかということを調査すべきと思います。
 例えば、「うちの病院は、薬剤師の説明を今期のカスタマーズ・サティスファクションのターゲットにしよう」と決めたならば、退院した患者さんを対象に、薬についてどの程度の説明を受けたか。あるいは、退院前に、これから副作用が起こったときの対処方法を説明されたか。説明が本当に理解できたか。その説明は文書とともに行われたか。病院として患者さんに行うべきことをどれぐらい行えたのか。・・と具体的に分析し、病院としての達成度を知ることが大切だと思います。
 患者さんが病院に期待するものは、いったい何なのか。それを病院はどのくらい満たしているのか。どのようにしたらカスタマーズ・サティスファクションを得ることができるのか、という目標を立て、実践していくべきではないかと思います。

患者サービスがキーワード

 病院の生き残り策ということで各種の問題点について話をしてきましたが、このような厳しい医療環境の中、現在、公的な病院の役割が問われています。実際に、自治体の財政は急速に悪化しているわけですから、自治体病院への補助金も問題になるのは当然でしょう。しかし、自治体病院の中にも、医療収益で医療費用を賄っている施設が少なからずあるわけですから、自治体病院も民間病院と同じように、収益黒字を出していくための経営努力が必要になるでしょう。
 今、われわれは、病院が生き残っていくための大きな転換期を迎えていることはたしかです。そこで、繰り返しになりますが、病院として患者さんにどれだけの満足度を提供できるかが、生き残り策の最大のポイントであり、それを追求していくことが重要だと思います。(於:金沢市文化ホール)
 
 

〔シンポジウム/これからの病院経営〕
座長:神野正博氏(董仙会恵寿総合病院理事長)
シンポジスト
  :長谷川 均氏(医療法人真正会事務局長)
   本郷正樹氏(喜峰会東海記念病院企画人事部長)
   谷田一久氏(広島国際大学医療経営学科助教授)
   冨井淑夫氏(日本医療企画企画調査室室長)
 
 

●病院はサービス業と認識する
 神野正博氏(董仙会恵寿総合病院理事長)

 本日は「これからの病院経営」というテーマで、専門家の諸先生方からご講演いただきますが、はじめに私から、これからの病院経営のスタンスについてお話させていただきます。
 皆さんのなかに、病院は特殊なところだというイメージを持たれている方がおいでかと思いますが、病院は決して特殊ではなく、サービス業のひとつです。サービス業として、技術とサービスを提供して収入を得、人的な物的原価として支出があります。そして利益によって資本を形成するという点を考えますと、一般の企業と相違はありません。つまり、病院といえども、市場・顧客・技術というものに適応、適合していかなければ生き残ってはいけなくなっています。
 ひとつの視点としましては、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)によって、今までの病院業務をゼロから見直し、サービスの質や職員、医師の意識を落とさずに、セルフ・アセスメント(自己評価)し、ベンチマーキング、他の病院や他の企業と比較することが大事になってきます。そして、他の病院や企業の情報を集め、学ぶべき点はどこかということを知ることが重要です。
 また、アウトソーシング(外注)も、今でとは異なったかたちで、病院が外注を受けるという方法も出てきます。その他、病院が持っている地域医療に関する情報を、最大限に活かしていくことによって、介護保険制度の主役になりうると思います。
 
 

●既存の施設を再構築し、療養型病床群への転換を図る
 長谷川 均氏(医療法人真正会事務局長)

 私ども真正会は、2つの病院とそれから1つの無床診療所、それから訪問看護ステーションを2カ所持っており、(1)先駆性・開拓性、(2)福祉性、(3)地域性、(4)協調性の4つの事業理念を掲げています。その他に、医療指針としては、保険医療、福祉との連携、全人的医療とチームプレーを実践し、コミュニティ・ケアでは、在宅やデイホスピタルの推進を積極的に行っています。
 近年、高齢者や慢性期の患者さんの増加、介護保険制度などを見据えて、これらの施設をどのように再構築していくかを、療養型病床群への転換も含めて考えてきました。
 医療環境を取り巻く状況は大きく変化し、一般病院では平均在院日数の問題、老人患者の定額制導入、老人病院では新規参入ができない、老人病院制度の廃止など、ますます厳しくなってきています。そのため、これから病院をどう再構築していくかが大きなテーマです。ひとつの選択肢として、療養型病床群への転換があり、私どもでは、この選択をしました。
 療養型病床群を選択した理由として、まず、病院の老朽化を何とかしたいということ、そして2つの病院の機能を明確にすることがありました。つまり、入院機能と外来機能に区分し、再構築を図り、その上で介護保険の対応を考えていくということです。
 そして基本コンセプトは、患者さんが退院して自宅に帰って新しい生活をすることに置き、病棟を自宅、町、社会を意識して設計しています。そして、医療の原点は福祉であるとことを基本とし、医療という考え方ではなく、サービスを行うという視点に立って、アフターケア、ビフォアケア、健康予防などにも取り組んでいくつもりでいます。
 
 

●病院における人的資源管理のポイント
 本郷正樹氏(喜峰会東海記念病院企画人事部長)

 私のほうからは、病院での「人的資源管理」についてお話させていただきます。人的資源管理という言葉は、医療界ではまだ聞き慣れないと思いますが、一般企業では人材を確保するための知識、方針として応用されています。
 病院の雇用形態は、(1)正職員、(2)嘱託、(3)パート,(4)アウトソーシングの4つに区分されると思いますが、今までは、人を雇うときに経営方針などとは関係なく、数合わせで雇用していた施設もあるのではないでしょうか。
 病院はサービス業ですから、対人処理能力が高くなければ、患者さんの満足が得られませんし、人材にはその能力が要求されます。
 そのため、人を雇用する場合には、人を経営資源として捉える新しい人事・労務管理の考え方が大切となります。そして、経営方針として、病院が必要とする人材像を明確にし、その採用から退職までを一貫して考えていくということが必要でしょう。
 人材確保の場合には、まず、現状を把握し、どのような病院にするかという戦略目標を立てることです。それをもとに、(1)要員計画を立てる(労働市場にアプローチ)、(2)入口管理、(3)過程管理、(4)出口管理、とトータルに考えていきます。そうすれば、例えば、職員の定着化などの問題は、入口管理で理念の高い人材を採用しておくことで、途中の過程管理で中途退職や教育面で苦労する可能性が低減されます。
 次にセカンド・ステップの入口管理では、1人の人材を採用することは、定年まで約40年間の人件費を考えますと2億円の買い物をするという慎重さを持つことです。また、病院の成長度と必要能力、本人の適性を正しく判断して採用することが重要です。適性とのミスマッチがあると、十分な能力を発揮できず、生産性が下がってしまいます。
 サード・ステップの過程管理では、人事情報をカルテ化・データベース化して管理することのほか、管理職の仕事として、輝いている人材の発掘が大切となります。
 そして、最後の出口管理は、職員が退職した後の管理です。定年退職は別として、中途退職の場合は、退職理由を明確にすることです。どのような理由で退職したかを分析することが、今後の人的資源管理の参考になります。
 このような人的資源管理という論理的な手法が、今後の病院経営でも大いに参考になるのではないかと思います。
 
 

●病院の経営改善には専門性の統合が必要
 谷田一久氏(広島国際大学医療経営学科助教授)

 これからの病院経営に役立つ、科学的な経営についてお話させていただきます。科学的な経営、科学的手法というのは、いわゆる大企業で行っている経営手法です。大企業では、大きな組織体のために、顧客の顔が直接見えていません。それ故に、顧客をイメージで捉える科学的な手法をとらざるを得ません。
 ところが、病院の場合は、外来にしろ入院にしろ、顧客の顔が常に見えています。顔だけではなく家族関係まで見えているほど、大企業と比較すると小さな企業体なわけです。そういうところに、大企業の科学的手法が合うのかと、疑問を持たれると思いますが、病院に適した科学的な経営というのがあるはずで、それをみつけるべきだと思います。
 次に、経営改善について考えてみます。これを物理学的な発想でお話させていただきますと、物理の世界では複雑なものがもてはやされていまして、それを突き詰めていくことが求められています。現在、病院経営でも同じようなことが行われており、目的に近づくために制度や業務をどんどん複雑にしてきています。その原因は、専門性の追求にあると考えられます。例えば、診療科では、一般内科だけでなく、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科というように、また、看護でも急性期や慢性期の看護というように専門性を進めている状況にあります。しかし、このまま専門性を進めても経営はよくならないし、目的にも近づけないことは今まで行ってきたことで明白なはずです。
 そこで、経営改善のためには、病院経営の根底にある原理を変える必要があることが分かります。それはどういうことかといいますと、専門性の統合です。つまり、総合診療科、全人的な医療やチーム医療などの専門性の統合ということです。ただ、大学病院やナショナルセンターの場合は、専門性を追求していくことが大切だと思いますが、一般の臨床病院は専門性を統合していくことが非常に重要な課題といえます。
 このように、病院経営の目的に近づけるために複雑化してしまった現状を最初からやり直すことが、リエンジニアリングです。大企業の手法とは異なる病院のやり方をみつけることが必要です。そして、そのことが科学的な病院経営の視点といえるのではないかと思います。
 
 

●収益改善を図るには、徹底した経営改革に取り組むことが大切
 冨井淑夫氏(日本医療企画企画調査室室長)

 医療経営が「冬の時代」といわれるようになって久しく、経営が悪化する病院が増えている一方で、短期間でさまざまな経営改革を実行し、収益改善に成功している病院もあります。そこで、そのような成功例として、大阪府枚方市のS病院をご紹介させていただきます。
 S病院は 120床で、内科、外科、消化器科、整形外科、皮膚科、泌尿器科を設置しています。医療方針として、地域の医療ニーズに対応していくことを掲げており、さまざまな経営改革に取り組んでいます。
  まず、経営改革の1つ目は、看護部門の看護収入が低く、医療収益が伸びないということから、院内に基準看護取得委員会を結成し、基準看護を取得しました。そのことで、看護料収入が増加し、現在では、人件費に看護料収入が見合うまでになっています。
 2つ目は、この地域になかった透析医療の開設です。開設当初から平成5年までは患者数が伸び悩んでいましたが、徐々に増加し、現在では非常に高い収益を上げるまでになっています。
 3つ目は、在宅ケアの推進です。平成2年からスタートさせ、訪問看護を中心に患者数を増やし、訪問看護ステーションも2カ所開設しています。そして、今年には老人保健施設を開設し、在宅患者数も 160人に達しており、短期間に増加したことが分かります。
 4つ目は、薬剤師による服薬指導の開始です。平成5年からスタートしましたが、現在では人件費と技術料はほぼ同じになっています。
 S病院の強みは、在宅医療の積極展開や技術料収入へのシフトなど、徹底した経営改革方針を打ち出し、実行するところにあります。そして、それは院長の決断力と、スタッフの意識の高さにあり、中小民間病院の生き残り策として参考になるのではないかと思います。

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