第十一回研究会 記録誌


 

ホスピタルマネジメント研究会第11回勉強会記録誌 1998年10月17日

〔講演・〕
『大震災に学ぶ危機管理とその後の病院改革』
特定医療法人慈恵会 新須磨病院・院長 澤田勝寛氏

〔講演・〕
『患者満足は職員満足から』
株式会社エクスアンティ 取締役プロジェクトリーダー 永田雅章氏
 
 

〔講演・〕
『大震災に学ぶ危機管理とその後の病院改革』
特定医療法人慈恵会 新須磨病院・院長 澤田勝寛氏

 新須磨病院(許可病床数 198床、診療科目16科)を中核とする慈恵会グループの施設のほとんどは、神戸市須磨区内にある。1995年の阪神淡路大震災時、断層の上にあった同地区は大きな被害を受けた。慈恵会グループも例外ではない。スライドによる生々しい被害状況の説明、当時起こった問題とそれに対する対処方法といった貴重な体験の紹介と、さらにその教訓をふまえたその後の病院改革についての発表である。

被災からの教訓・災害にHOW TOなし

 当院の阪神淡路大震災時の状況は、以下のとおりである。
・患者の死亡なし
・職員の死亡なし、家族2人死亡
・当日の来院患者数:約 250人(うち死亡22人)
・当日出勤職員:医師  13人/22人
  看護婦  50人/105 人(全体の60%)
・職員で家が壊れた者:13人
        半壊:24人
・補修費用:1億円(グループ他施設を入れて2億円)
 私自身、危機管理については日頃から関心を持っていたつもりだったが、地震という天災は全くの盲点であった。それはまさに「戦争」。この時感じたのは、災害にHOW TOなし、要は心構えひとつである、ということだった。「憂いなければ備えなし」・・日頃「危機」としてどんな事態を想定しているかに尽きる。悲観的に考えて楽観的に対処すること、普段からこの心構えが必要だろう。
 また、上に立つ者が強力なリーダーシップを持ち、いかに早く判断し決断を下すかということも重要だ。リーダーたる立場の人間が平時から危機意識を持ち、いざという時に率先して先頭に立つという意識でいることが、いかに大切かを実感した。
 さらに、組織全体は常に警戒体制でいられるよう、働くものと休むものの役割分担をしたうえで対応する必要がある。また、命令・管理・情報の一元化も重要。当院では、地震後さまざまなデマが飛び交い混乱をきたしたため、災害対策本部を設け、「災害対策ニュース」を発行して正確な情報伝達に務めた。最も大きな問題であった水の確保のための呼びかけ、職員に対する給与・手当や融資など、すべての情報はこの対策本部から出されている。

復興と同時に病院改革を

 この震災を機に、病院の仕組みそのものを見直す必要性を痛感、以後3年間は常に危機感を持って病院改革に取り組んできた。取り組みのキーワードは、「院内のきまりの見直し」、「情報伝達」、「仕事の効率化・無駄を省く」である。
●個人商店から企業へ
 現理事長によって設立された成長してきたグループであることから、以前は強かった個人色を払拭するため、論理・数字・きまりの概念を徹底。就業規則の見直しによって、職員は1カ月9休制として、病院は土曜日もフルオープンという体制を確立した(将来的には 365日体制を目指す)。また、公益性を前面に出すため、昨年「特定医療法人」を取得した。
●各種規約見直し
 グループの8つの施設で、各々まちまちであった規約を標準化。
●互助会廃止
 病院全体での行動を廃止する。
●組織図の見直し・指示系統の確立
●各種委員会
 有名無実の委員会を解消、災害対策委員会から引き継いだ業務改善委員会やQRT(クイックレスポンスチーム)など、有益な新しい組織を設立した。
●情報伝達の徹底
 理念や情報の周知徹底と院内コミュニケーションを図るため、「手書きメール」や数種の院内広報誌を発行。
●医師への啓蒙
 薬でなく技と知識を売ること、病床利用率よりも平均在院日数を重視することの重要性を啓蒙、徹底させた。
●賃金体系の見直し
 1998年6月より、医師及び管理職の職能給制度を導入。しかし、実際の運用はなかなか難しい面もある。
●教育の充実
 コメディカルへの学会参加の機会拡大や、図書研修室の新設、講演会の開催など。
●患者対策
 ご意見箱を設置し、その声をもとにアメニティーの改善を行っている。トイレの手洗い・男子便器の自動止栓化と清掃業者の変更は、衛生面で大きな効果を上げただけでなく、水道料金の大幅な削減にもなった。広報としては2種類の広報誌や診療カレンダーを発行、また「医療の価格表」(何にいくらかかっているかを表示したもの)を作り、配布している。これも非常に好評だ。
●地域社会との融合
 糖尿病教室や定期的な特別講演会を開催している。
●大型医療機器の充実
●ケアミックス
 震災の補修費捻出手段のひとつとして、病院近代化設備整備事業より補助金を受け、病床を20床削減、1病棟を療養型病床群にした。看護婦の減少、患者の移動があり、当初は成功であったが、現在は一般病棟のスタッフとの意識の温度差など、ケアミックスの欠点が表出してきており、対策を思案中である。
●薬剤購入の効率化
 業者・品数を絞り、公正な基準での薬剤購入を心がける。薬事審議会を再編した。
●平均在院日数の短縮
 ケアマップ・クリティカルパスの導入、グループ内訪問看護ステーションやデイケアとの連携、QRTの活用などにより在院日数の短縮を図る。ケースワーカーと看護部長が持つ地域におけるネットワークが強力で、地域の他施設との連携が非常にスムーズであることも大きな戦力となっている。
●物品管理システム
 1997年8月よりピップ方式を開始。4000万円の在庫が 500万円に減少した。
●リハビリ施設の充実
  震災後に建設したリハビリ施設を、来年度には総合承認施設に申請予定。現在もプロ野球のオリックス、神戸製鋼ラグビー部など、多くのチームに利用されているが、一歩進んだスポーツリハを目指している。
●院内のネットワーク化
  1998年2月、検査システムのネットワーク立ち上げ。院内OA委員会を中心に、院内ネットワーク化を進めているが、まだまだ模索中である。

今後の展開

 これらの改革はすべて、震災をきっかけとして生まれてきたものである。病院の基本といわれるものから、先を見越したもの、小手先と思われるものも含めてさまざまだが、信念を持って前向きに取り組んできた。今後は、療養型病床群を亜急性もしくはリハビリ棟的なものへ、また療養型の機能を老人健康施設へと移行させ、急性期医療はさらに先鋭化を図るなど、「細る医療、太る介護」と言われる時代に対応するための改革を、できることから少しずつ進めていきたいと思っている。
(病院の震災体験等は、著書『病院が震災から学んだこと』に詳しいので参照のこと)
 
 

〔講演・〕
『患者満足は職員満足から』
株式会社エクスアンティ 取締役プロジェクトリーダー 永田雅章氏 

 永田氏の所属する株式会社エクスアンティは、企業のサービスマーケティングに関して、インターナル(組織内部をどのように活性化していくか)という観点でコンサルティングを行っている会社である。
 「医療はサービス」という捉え方が一般化しはじめ、組織開発という意味での顧客満足(患者満足)が問われはじめている現在の医療機関において、このノウハウをどのように応用できるのか。同社では、「患者満足は職員満足から」という視点から『ポジティブ・フィードバック・システム』という職員満足活動のシステムを開発した。そのポイントと、実際に導入された事例の紹介を行った。

患者満足活動推進のポイント

 病院における患者満足(CS)活動で最も重要なことは、「(CSに基づく)病院の理念を根幹に、一貫性を持って行う」ということである。理念に基づいて戦略を立て、行動指針を作り、細部の問題解決に向かう。現場の問題は、常に理念に立ち戻って考えれば、その解決は容易かつ的確なものとなる。立ち戻るところがない場合、CS活動はアクセサリー的なものに終わってしまいがちだ。現在多くの病院でみられる問題の多くは、ここに原因があることが多い。
 具体的に活動を行う際、まず前提として考えておきたいのは、「患者満足は職員満足によって成り立つ」ということである。CSを創り出すためにはまず、職員自身が自分の仕事に誇りを持ち、満足していなければならない。よって内部へ向けてのマーケティングは重要な要素である。ここでのポイントは3つある。
(1)「私以外全部顧客」・・【院内顧客概念】の確立
 患者だけでなく、病院の職員を含めた自分以外のすべての人を顧客とみなしサービスを考えることで、普段患者に接することの少ない職員を含めたすべての職員が、CS創造に参加する意識とその必要性の認識を持つことができる。
(2)適性行動への積極的評価
 「ミスがなくて当たり前」という医療の特性から、現場では肯定的評価は少ない。しかも、その評価は医師や看護婦といった職種に偏りがちで、やって当たり前の行動は無視され、否定的評価のみが取り上げられる傾向がある。評価の不足は、やる気の減退、サービスの偏りを生む原因。そこで、無視されている行動の中から積極的に肯定的評価を拾い出し、また否定的評価を当人に対する「課題」とすることで、個々の職員が「頑張っている・役に立っている」という気持ちで働ける土壌を作る。
(3)共生・共創への転換
 (2)が進み、個々の職員が満たされることで、問題点をチームで解決する環境が生まれ、組織としてサービスを提供することができるようになる。従来、患者満足は職員の犠牲の上に成り立つようなところがあったが、それでは組織的な改善は望めない。「信頼」が評価基準となる医療というサービス業において、職員同士の信頼ができていなければ、患者との信頼も生まれるはずはない。

ポジティブ・フィードバック・システムとは

 『ポジティブ・フィードバック・システム』は、CSの基礎としての職員満足(ES)を創り出すために開発した。職員満足を「仕事への誇りと、スキルアップする面白さ」と捉え、肯定的な評価を通して、職員が「自分は役に立っている、必要な人材である」と感じられるように作られたシステムである。構成は次の3つ。
●ワークショップ・トレーニング(教育)
 CS活動の中心となる人々に、前述の3つのポイントを理解してもらい、職場にシステムを導入する際の伝道師となってもらう。1カ月に1回の研修(3時間)で5回。
●カード・システム(日常ツール)
 ポジティブ・フィードバック・カードを作り、職員同士が評価を伝える手段とする。このカードは全職員が持ち、部内外、関係の上下を問わず、地道なCS活動や良いサービスを見かけたら、個人レベルでこれを評価し、カードに記入する。職場に設置した専用ポストに投函、事務局がこれを集計した後、当該者に渡される。
 また、カードを書いた数、もらった数が一定量に達すると、CSマスターとしてトップから評価されるシステムとする。
●ニューズレリース(広報・啓蒙)
 集められたカードの内容から、組織の意図にあったもの、強化したいテーマに関連するものなどを選出して、全職員に紹介する。評価された活動がオフィシャルなものになることで、よりサービスに対する意識が明確になると同時に、これまで日の当たらなかった部門の職員たちにも、自分たちの仕事の役割・やりがいを実感する機会が多く与えられるようになる。ニューズレリースにはまた、院長のメッセージや、月ごとのテーマを表示し、全体の方向づけを持たせる役割もある。

システムの導入で得られる効果

 実際に、熊本県の益城病院(精神科・神経科、 210床、職員数 167名)でこのシステムを導入した事例を見ると、導入後4カ月で全体の59%の人がカードをもらい、36%がカードを書いている。5枚以上でなれるCSリーダーは全体の23%で、一般的に全体の1割が変われば組織は変わったとみなされることを考えれば、かなり大きな効果である。
 研修後のアンケートからは、「職場・職位を超えて、病院に対する思い、意見、それぞれの業務視点から見た問題点や改善点をポジティブに話し合えるようになった」、「自分に対する肯定的評価ができるようになった」、「職員同士のつながりを再認識することで存在感が出てきた」などの個々の変化が読み取れる。
 また、システム終了後のアンケートでも、上司への信頼、同僚との助け合いなどに、大きな改善がみられたことがわかっている。
 このシステムは、職場の雰囲気をポジティブに変えていくことにポイントがある。ポジティブな観点で見れば、評価されるべき働きをしている人は職場にたくさんいる。それに対して積極的に評価し、公にすることで、そこにくさびが打たれ、それ以下にレベルが落ちることはなくなるのである。カードをもらう人だけでなく、書く人が評価されるのも、それが人をサポートし、いいサービスを常に考え、自分なりの基準を持っている人だからだ。積極的に改善点をみつけ行動に移せば、それが評価として結果に出る。その風土を作ることで職員の意識が向上し、すべての職員がやりがいをもって働く職場が実現される……それがこのシステムの大きな目的なのである。
 CS活動への取り組みは、その意図が「厳しい競争に勝ち残り、病院を永続させるため」というものに留まれば、必ず破綻するだろう。病院に働く者の「医療を通じて、社会に価値ある者として存在したい」という自己実現がなされてこそ、生きた患者満足は実現されるのである。

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