第十二回研究会 記録誌


 
ホスピタルマネジメント研究会第12回勉強会記録誌 1998年12月5日

〔講演I〕
『岐路に立つ病院経営と医療制度改革』
京都大学経済学部教授 西村周三氏

〔講演II〕
『私の医療人生』
医療法人藤原ENTクリニック耳鼻咽喉科理事長 藤原久郎氏
 
 

〔講演I〕
『岐路に立つ病院経営と医療制度改革』
京都大学経済学部教授 西村周三氏

 医療はビッグバンを迎えた。次々と進む医療制度改革、そして規制緩和の波の中で競争時代に突入した医療機関。病院経営を考えるうえで、なにを見据えて取り組んでいけばいいのか。病院をとりまく情勢はどう動いていくのであろうか。「医療経済学」「臨床経済学」という新分野を構築し、システム論という立場から医療と医療経済を研究されてきた京都大学経済学部教授の西村氏にお話いただいた。

医療費の動向

 医療保険改革の動向は今後どうなっていくのか。この問いに対する解答は難しい。問題は改革の時期なのだが、医療費総額伸び率のデータをみると、97年下半期、患者負担増の影響で一時的に伸び率は下がったものの、98年にはもう回復基調を見せている。このまま急速な勢いで伸び続ければ、改革への着手も早まることは必至であろう。改革の見通しとしては次のように考えられる。
●患者負担の引き上げはできない……現在の景気の状態を考えると無理。
●定額化は少しずつ……DRGに関して言えば、実現は少なくとも5年以上先と思われる。また、特定の疾患にしぼった1日あたりの定額化が進む可能性もあるが、時期は少し遅れるだろう。しかし、介護保険導入により、事実上の定額化が行われるであろうことは念頭に入れておくべき。
●薬価制度廃止は不透明……今のままである可能性が60%というところだろうと思う。しかし、DRGが導入された時点で、診療報酬の対象になるものに関しては、自由価格制が導入されるということは予想される。また、厚生省はまだ参照価格制導入を諦めてはいない。当初とは少し形を変え、償還額を下回る取り引きに関しては、若干の薬価差が生じるのはやむを得ないとする方向で実現を目指している。ただし、薬価改正によって医療費が削減できるかどうかは、ドイツの先例を見てもわかるように、長期的にはあまり期待できない。
 いずれにしても、長期的には薬価制度改革は不可避である。ただ、日本で問題になると思われるのは、その結果起こる医薬分業で、それによって病院の信頼がなくなっていく危険性を孕んでいる。病院の中で薬剤部門をどう位置づけるか、薬剤の指導体制をどうするかが、鍵となっていくだろう。

介護保険がもたらすインパクト

 平成12年、介護保険には利用者負担も含めて総額4兆2千億円が投入される。今後の病院経営を考えるうえで、介護保険は重要なポイントである。注目すべきポイントは、療養型病床群と訪問看護ステーションで、これまで医療保険でカバーされていた部分に介護保険の適用が認められることになる。
 ただ、患者の側からすれば、単に財源が変わっただけで、結局は医療費の引き上げと同じではないか、という見方もある。
 医療機関が留意すべきは、「介護」という機能を充実させ、目に見える形で提供することである。最も重要視されるのはリハビリテーション機能。具体的には、OT、PTの配置である。人材の供給量の関係から、療養型施設に十分なスタッフを配置できないという現状はあるが、これからの課題として、医療施設が着目していかなくてはならない点であると言える。

これからの病院経営

 病院のこれからのマネジメントのあり方として考えられるのは、医療と介護を一体化させた経営展開であろう。介護保険と医療保険の境界領域は今後、情勢によって揺れ動く可能性があり、また、患者の側にサービスを選択する知識が確立していないことを考えると、同一経営主体にするにしろ、連携の形をとるにしろ、チェーン展開のほうがメリットが大きいことは確かである。ただ、二木立氏が著書『保健・医療・福祉複合体』で指摘しているように、この形には次のようなマイナス面もある。1.地域独占、2.福祉の医療化、3.クリーム・スキミング(利益の上がる分野への集中)による利益最大化、4.中央・地方政治家・行政との癒着、などである。
 前述の3番目が、参入規制に対する規制緩和の是非とも関わってくるところであるが、まず、病院がなすべきことは、医療機関としての明確な理念を持つ、ということである。「これだけは採算を度外視してもやる」という、しっかりとした理念を経営者が打ち出し、従業員にそれを理解してもらうことが、長期的な信頼につながっていくだろう。
 むろん、経営という面での努力も必要である。近年の金融危機は、企業の資金調達に大きな影響を与えている。今、時代は、アメリカのように自己資本比率を高める方向を検討すべき時期にきているのではないだろうか。株式会社なら株式の発行、医療法人ならば出資者をみつけるということである。患者会を作り、少額でもいいから地域の人たちに出資してもらう、という形で自己資本比率を高めるのだ。医療法人制度は、本来アメリカのコミュニティホスピタルを真似て作られたもの。この「地域に支えられた病院」というイメージは、病院の非営利性を表明する道にもなり、また患者獲得、地域の信頼性の確保という点からも、好ましいことであろう。
 もちろん、現行の制度下では容易なことではないが、実際に成功している病院もいくつかあり、多数の医療機関の求めがあれば、このような方向への法整備や税制上の優遇措置も可能なのである。今、大切なのは、制度的にはそうでないにもかかわらず、「営利」と理解されがちな医療法人制度の内実を改めること。そして、それを医療機関自体の内発的努力でイニシアチブをとって行っていくことではないだろうか。
 
 

〔講演II〕
『私の医療人生』
医療法人藤原ENTクリニック耳鼻咽喉科理事長 藤原久郎氏

 藤原ENTクリニックは、長崎市内の一等地のビル内に居を構える耳鼻咽喉科の単科クリニックである。平成10年で満9年を迎えたこの個人病院では、藤原氏1人で1日約 200人から、多い時には 300人もの患者をさばくという。その秘密はどこにあるのか。理事長・藤原久郎氏に、その理念と開業時からの道のり、病院のシステムなどについて語っていただいた。

時代の常識を破る「外来手術」の開発

 当院の特徴は、何といっても「外来日帰り手術」である。開業当時、耳鼻科開業医では、手術は入院施設のあるところへ紹介するものという固定観念があった。しかし、患者のニーズを考えれば、入院をしないで手術を受けられれば、それに越したことはないはずである。それに、長年国立病院でメスを握ってきた身としては、診療だけの開業医に転身することに少なからず抵抗があった。そこで、「一般開業医でやっていない外来手術」をテーマに、技術開発に取り組むことにしたのである。
 目をつけたのは「レーザーによる手術」であった。もちろん、当時から癌などの手術にレーザーは用いられていたが、機械に高額の費用がかかるということや、良性の疾患には保険がきかないことなどから、一般の治療にレーザーを用いるという概念はなかった。しかし、効果が高いことは事実であり、治りも早い。付加価値にもなると考え、開業当時からレーザー手術を行い、技術開発を続けた。たどり着いたのは、それまでになかった「中出力」のレーザー手術。それまで高出力と低出力しかなかったものを、耳や鼻に適用できるよう試行錯誤した結果である。これによって、入院なしの手術が実現し、「痛い、出血する」という耳鼻科手術のイメージを払拭することにも成功したのである。

「成長の時代」にシステム改革

 この「付加価値」は大きな効果をもたらし、たくさんの患者さんに来てもらったが、開業当時のクリニックは、構造上さまざまな問題があった。時には、入口をあふれた患者さんが隣のデパートの入口まで連なるということもあった。そこで、移転を決行。「待ち時間ゼロ」を目指して、いろいろな工夫をこらした。
 現在のクリニックは、テナントビルの6階に 120坪、4階に40坪の計 160坪を借りている。6階部分に2つの待合室、治療室とカンファレンス室、手術室、CT等の検査室2つがある。スムーズに患者さんを流すため、クリニックはロータリー方式を用いて、入口・受付から会計・出口まで「ワンウェイ」で移動できるように配慮した。受付に2台、会計に2台、診察室など、あわせて7台のコンピュータを設置した。これは、カルテの中心となる部分は医師が書くが、他の指示については治療しながら口頭でスタッフに伝え、それをスタッフが逐次コンピュータに入力し、患者さんが会計へ向かう頃には、すべての入力が終わっている、という体制を作りたかったからである。最近は、スタッフも慣れてきて、待ち時間はほとんどゼロに近づいてきた。また、治療用の顕微鏡もモニターに繋ぎ、処置をしながら患者さんや保護者にその様子を見てもらい、リアルタイムで説明することで治療時間を節約している。
 手術は週に1回。そこで、手術室の有効活用を意図して、耳と肩とは関連が深いため、手術室の空いている曜日に患者さんにマッサージを試みた。これが患者さんに好評だったので、保険診療外で、4階部分に鍼灸・マッサージ施設を作り、事業を始めた。これももう1つの「付加価値」となっている。

理想の医療を目指して

 このように、開業から6年あまりは、患者のニーズ把握、技術開発、また病院のシステム構築などに力を注いだ。その後の課題になってきたのは、スタッフ教育、患者さんとのコミュニケーション、クリニックのイメージアップなどであった。特に苦労したのはスタッフ教育で、「当たり前のこと」をしてもらうのでさえ難しい状況。優秀な人材を集め、組織の理念を理解してもらうことは、ほとんど不可能のように思われた。しかし「継続は力なり」と考え、スタッフとの交換日記を行い、週に2回はカルテの勉強会を、現在も継続して行っている。
 また、患者さんに向けては『藤原ENT通信』というカラーの広報誌を発行、医療情報の提供とともに、日頃ゆっくりと話ができない患者さんに、自分の考えを伝える手段として、また病院からの情報伝達、あるいは地域のみなさんに身近に感じてもらうツールとして役立てている。
 スタッフの手作りであることから、スタッフの教育効果とスタッフのクリニックに対する思い入れが深くなり、スタッフ自身の意識の向上というメリットも生まれた。
 また、患者さんとのコミュニケーションとして、カラオケ大会も開催している。耳に障害を持ちながら、この会を楽しみに来てくれる患者さんと触れあうのは、医師としての大きな喜びでもある。
 開業医としてのこのような取り組みの中で、常にぶつかってきたのは保険診療という壁である。レーザー手術の際も、保険では扱えないために、さまざまな苦労があった。現在の保険診療の中で医療を行おうとすれば、「治らないこと(検査ばかり)をするお医者さんごっこ」になりかねないことに大きな危惧を感じている。「医者としての本当の仕事」をするために、医療にも意識革命が必要だ。私は、今後も「付加価値医療」、「情報医療」、「個人にあわせた(患者の顔を見た)医療」をキーワードに、私なりの医療を目指していきたいと考えている。

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