第十三回研究会 記録誌


ホスピタルマネジメント研究会第13回勉強会記録誌 1999年2月20日

〔講演I〕
『クリティカルパス・その過去・現在・そして将来』
株式会社ドクターズオピニオン 立川幸治氏

〔講演II〕
『脳梗塞急性期を対象としたクリティカルパスの作成と実践』
済生会熊本病院 脳卒中センター神経内科医長 米原敏郎氏

〔講演III〕
『患者用クリティカルパスより職員用クリティカルパスを目指して』
済生会熊本病院 脊椎・関節外科センター/腎・泌尿器科センター婦長 道端由美子氏
 
 

〔講演I〕
『クリティカルパス・その過去・現在・そして将来』
株式会社ドクターズオピニオン 立川幸治氏

 立川氏は、循環器専門医として7年間勤務医を務めた後、アメリカのシンクタンクでマネージドケアの調査・研究に従事、その経験をもとに現在『(株)ドクターズオピニオン』においてコンサルティング等の業務を行っている。近年、日本でも関心の高まっているクリティカルパスだが、日本での適用は有効なのか。欧米の実情、またそのプラン作成のノウハウに精通する立川氏に、日本におけるクリティカルパスの可能性について伺った。
クリティカルパスとは

 クリティカルパス(現在欧米ではクリニカルパス、クリニカルパスウェイと呼ぶことが多い)とは、一言で言えば、横軸に「いつ(時間)」、縦軸に「何をするのか(介入)」を配置した手順書である。
 病院では、急患に対応する時、医師・看護婦・薬剤師・検査、さらに医事等それぞれの分野で「このような患者の場合はこう対処する」という暗黙の手順が、ある程度決まっているものだ。
 この各職種内で行われているケア提供の手順・段取りを、一度目に見える形にして同じテーブルの上にさらしてみると、各職種の処置が重複していたり、手順の悪さがあることに気づく。これを、職種間で議論しながら、共通の手順書に進化させていったものがクリティカルパスである。
 よって、その形式・中身は、病院によってそれぞれ違うものであってもよい。
 クリティカルパスの基本要素は以下のとおり。
●時間軸
●介入軸(何らかの成果と因果関係のある介入に限るべし)
●コンセンサスとしての標準(均一化・画一化ではない)
●ヴァリアンスの記録システムとそのマネジメント
 クリティカルパスを作成するとき、まず大切なのは、何のためにやるのかという目的に対するコンセンサスと、その目的を達成するために必要な介入を配置することである。
 作成されたパスは、ヴァリアンスのマネジメント・システムがしっかりしていれば、実際の症例に使用した後、フィードバックすることで再構築することができる。

日本の病院におけるクリティカルパスの適用

 一般的に、クリティカルパスを作る際は、患者群を絞ることが重要といわれている。対象に適しているのは、患者数が多く、在院日数や症例当たりのコストに非常にばらつきがある疾患で、何よりも同質の患者群(人の手間や物、材料の消費が同程度)が抽出できそうな疾患や手技であることである。
 この「患者群を選び出す」という観点が、日本の病院の現状にそぐわないといわれている点でもある。
 欧米でクリティカルパスが普及したのは、DRG/PPSが導入され、疾患群ごとの管理が不可欠になったからである。
 この疾患群分類がなされていない日本の病院では、「同質の疾患を効率的にケアする」というインセンティブがほとんどないため、クリティカルパスが「在院日数の短縮」という目的のもと、時間軸にとらわれた編成や評価になりやすい。
 しかし、それでは結果的に大した効果はもたらされない。日本でクリティカルパスを導入するには、疾患をまずグループで捉え、それから個別にマネジメントするという発想が必要だろう。
 現況で、クリティカルパスが日本の病院に本当に役立つのか、という問いに対しては、まだ「クリティカルパスもあっていい」としか答えられない。しかし、病院が財務的なリスクを負わされている欧米では、クリティカルパスは「なければ生きていけない」ものとなっている。日本が将来、同じ状況にならないとは断言できない。その考え方は学んでおく価値があるだろう。クリティカルパスは、最も基本的に共通化できる部分を効率化するためのマネジメントツール。道具であるから、使う人次第でどうにでも活かすことができるということだ。

将来のクリティカルパスの可能性

 今後、長期療養型へ重点がおかれる日本の医療の中で、クリティカルパスの概念はどのように生かせるだろうか。広義に捉えたパスの領域について述べてみたい。
 その1つに、慢性期のパスがある。
1.従来、完治に近い段階で退院していた患者を、中途の段階で在宅に移行する場合の、在宅レベルのクリティカルパス
2.慢性期疾患の在宅とそれに付随する入院、さらに一般の診療所への受診までをパッケージしたクリティカルパス(現在アメリカでも模索中)
 また、介護保険導入後、ケアマネジャーが作成するケアプランも、在宅・各施設で各々が作るのでなく、施設から在宅まで一貫したプランを作ってみてはどうだろうか。タイプの違うプランをいくつか作り、選択の基準を示すことも必要だ。
 また、チェーン化が進むであろう将来、複数の施設間を貫くクリティカルパスも検討するべきだろう。治療や服薬の選択や方針について、施設・患者ともに共通認識として明示されるメリットは大きい。
 医療・保健・福祉の統合の動きの中、このようなクリティカルパスは必ず必要となる。その時、施設内独自のクリティカルパスすら存在しないのでは話にならないだろう。今、クリティカルパスの概念を学び、導入する意味の1つは、ここにもある。
 
 

〔講演II〕
『脳梗塞急性期を対象としたクリティカルパスの作成と実践』
済生会熊本病院 脳卒中センター神経内科医長 米原敏郎氏

 済生会熊本病院(病床数 400床)は「救急医療」、「専門・高度医療の提供」、「病診連携」を3つの柱とする急性期型病院である。ここでは、平成8年より全病院的にクリティカルパスが導入されているが、米原氏の所属する脳卒中センターでは、それ以前から脳梗塞のための治療プログラムを試行していたという。その経緯と成果についてお話いただいた。

クリティカルパスの概念なき頃に

 当院は、平成7年から臓器別診療体制を取るようになり、新しく脳卒中センターが発足、神経救急疾患の診療を行うようになった。入院患者数約 500名、その6割が脳梗塞及びその関連の患者であった。しかし、神経内科医師は2名。とてもすべてに手が回らない。特に軽症の患者さんほど放っておかれる傾向にあり、安静度拡大やリハビリへの転院が遅れる原因になっていた。そこで、入院時に指示を出し、あとは看護部で計画的に行えるスケジュール表を作ることを考えた。これがクリティカルパス(以下CP)の原点となったのである。
 平成7年に検討を始め、その年と翌年、集中医療学会で発表。同6月、さらに期間を早めた新マニュアルを作り、翌年試行。看護部主体で脳梗塞の急性期の安静度拡大ができるようになった。目指したのは仕事の効率化だったが、スタッフの脳梗塞患者の看護に対する意識の向上という思わぬ効果も生まれていた。

病院あげての大改革に

 平成8年、院長がアメリカ・カナダの研修旅行から欧米の資料を持ち帰る。ここで、病院全体でのCP導入が提案された。この時の病院は、インフォームドコンセントが未熟、業務内容が非効率、チーム医療体制が未整備、業務内容の評価がなされていない、医療環境の変化に対する認識不足、平均在院日数短縮が必要、などの問題があり、それらが導入の理由だった。また、看護部からは、業務多忙、医師と看護婦で患者への説明内容に違いがある、チーム医療・職種間の連携ができていない、医師によって診療内容・在院日数の差が大きい、指示受けのためのドクター探しに時間がかかる、などの問題点もあげられていた。
 9月、院長の専門である消化器から手をつけ、1年後には40種のCPが作成されていた。現在は90種近いCPが院内で稼動している。
 2カ月に1度、病院の全職種の職員が集まって、各病棟から出たCPを検討、ディスカッションする大会が開かれる。これは、病院全体にCPが浸透する機会でもあり、職員の意志統一、病院の目指す方向の確認の場としての役割も大きい。
 CPには随時改良が加えられ、新版がどんどんできている。脳梗塞のCPも、今は指示簿として使えるようになり、回診の際にも活用されている。新しく赴任してきた脳卒中医療初心者の医師にとってもありがたい道標だ。

クリティカルパス導入のもたらしたもの

 成果としては、インフォームドコンセントの充実、記録の簡略化や医師指示の簡略化、指示の徹底などの業務の改善、チーム医療の前進、職員の活性化(専門職としての自覚)、患者・家族の治療への参加意欲の芽生え、在院日数の短縮、職員の意識改革(自院の役割の再認識)などがあげられる。また、病診連携も非常にスムーズに行われるようになった。調査でも、それらの成果を裏づける結果が出ている。
 心筋梗塞などの疾患に比べ、脳梗塞でCPを作成するのは無理があるのではないかという声は多く聞かれる。実際に、ヴァリアンス調査ではそう思われるような結果も出ているが、まだ始まったばかり。さらに分析を重ねて改訂を加えていくつもりだ。大事なことは、CP作成に知恵を出し合い、均質で質の高い医療の実現が目指されていること、さらには職員の意識改革、意志の統一がなされていることではないだろうか。当院はCPをツールに、病院の理念である3つの柱の推進に成功しているともいえる。
 
 

〔講演III〕
『患者用クリティカルパスより職員用クリティカルパスを目指して』
済生会熊本病院 脊椎・関節外科センター/腎・泌尿器科センター婦長 道端由美子氏

クリティカルパス導入で予想以上の効果

 当院でクリティカルパス(以下CP)が導入された時、まず行ったのは、医師への協力依頼をスムーズに行うための方法模索であった。そして疾患の選択、チーム作りへ。「チーム医療」は、院長の強い意向であったが、当時所属していた科では、まず医師が叩き台として作ったCPを5カ月間試行した後、チームで話し合って不足項目を充足させていく方法を取った。栄養士が合併症を持つ患者さんへの退院時指導、理学療法士がリハビリ、薬剤師が服薬指導、ソーシャルワーカーも関わり、担当医、担当看護婦、担当理学療法士と、責任の所在もはっきりさせた改訂版ができあがった。
 この作業により、コメディカルの意見が臨床にきちんと反映される環境ができ、チーム医療という目的が達成されたばかりでなく、各職種で相談し合いながら専門職能を発揮することで医療の質を変えるという予想外の効果もあがった。
 患者用のCPは、絵文字を使って解りやすくしたもので、ベッドサイドに掛けておく。入院時に退院日が決めてあるので、準備もできるし、闘病意欲もわく。また、看護婦に対する単純な質問は減り、代わりに質問内容が高度かつ濃くなった。インフォームドコンセントにも非常に有効であった。
 平均在院日数は整形外科で導入前の27.7日から21.5日となった。以前はリハビリ開始まで6〜7日かかっていたものが、3日前後に。早期リハの実現で、廃甲症候群や起立性低血圧などの合併症が減少した。EBM調査では、在院日数が減っても、退院時歩行能力レベルは上がったという結果が出ている。
 在院日数の短縮により、急性期病院としての性質もはっきりと現れるようになり、病診連携にも変化が現れる。紹介病院と当院との間に高度リハビリテーション病院を置くことで早期に転院、そこから紹介元の病院へ転送できるようになった。専門的に早期リハをすることで早く復帰できるため、患者の満足度も高まることとなった。

職員の満足につなげる次のステップ

 しかし、メリットばかりではない。在院日数短縮のためにさまざまな問題も起きてきた。早期退院のためには、看護の密度はどうしても濃くならざるを得ない。また回転が早いため、看護婦の業務が煩雑化してしまった。当初は、指示業務の改善や勤務体制の変更などを行いながら、スタッフの不満を和らげる努力も行わなくてはならなかった。
 CP導入に関する患者満足度調査( 132名への郵送アンケート)の結果、「CPがあることで入院生活はどうでしたか」の問いに、「安心して過ごせた」という回答が93.2%、「治療は計画通りだった」が75%あった。まずまずの数字である。
 一方、看護婦へのアンケートでは「看護教育に役立った」48%、「看護の質向上」65.5%と、患者の評価に比べて低い評価だったことがわかる。
 このことは、職員用CP使用に至らないと、看護婦の業務改善や教育に直接つながらないと考えられる。患者や家族へのインフォームドコンセントや指導を充実させるためにも、スタッフ、特に看護婦の教育は今後の課題となりそうだ。
 現在、記録業務の簡略化を目指した、職員用のCPを試行中である。疾患についての職員用のCP作成には難しい点が多い。試作として、指示・看護記録・看護計画・医師記録が記入できるA4の紙を1日分として作った。この中の「看護問題」の欄を項目ごとに整理し、さらに「アウトカム」の項目を設けたのが新しい試みである。これは、患者を主語として成果を目標にあげるもので、患者中心の医療を目指している。
 新しい試みには、慎重な検討とルール作り、勉強会の必要性など、乗り越えるべきプロセスが多い。年月がかかるだろうが、この思考を浸透させ、医師によるリーダーシップにまでアプローチできれば、と考えている。
 

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