第三回研究会 記録誌


 
ホスピタルマネジメント研究会第3回勉強会記録誌 1997年9月20日

〔講演・〕
『21世紀の病院経営戦略・・ニューパラダイムの構築』
聖路加国際病院・予防医療センター 営業部長 石山 稔氏

〔講演・〕
『日本の医療制度の行方』
衆議院議員 熊代昭彦氏
 
 

〔講演・〕
『21世紀の病院経営戦略・・ニューパラダイムの構築』
聖路加国際病院・予防医療センター 営業部長 石山 稔氏

 平成9年7月、聖路加国際病院に1日約 100名を対象とした予防医療センターがオープンした。来春、すべての計画が完成する予定の大規模なプロジェクトがクライマックスを迎えた。「これからは医療保険制度の枠の中だけで経営を考えていてはダメ。公的保険以外の部分でサービスを充実させ、より多くのお客様に利用していただくことによって経営は成り立つ」という聖路加国際病院の基本的な経営戦略をふまえた上で、聖路加サービスセンター常務として3年、現在は予防医療センター営業部長としてこのプロジェクトに関わっておられる石山 稔氏が、独自の経営戦略案『病院経営ニューパラダイム』を述べた。

21世紀の病院経営=“境界のない医療サービス”

 ヘルスケアフローは本来、健康づくり(1次予防)・疾病早期発見(2次予防)といったビフォアケアと、治療を行うインケア、そしてその後のアフターケアから成っている。病院は従来、インケアの領域だけで完結し、板塀で囲まれたような世界であったが、今の流れはこの3つのケアの境界線がなくなりつつある。経営も病院の中だけで考えるのではなく、ヘルスケアフローの全てをカバーする視点が必要だと思う。
 現在、聖路加国際病院を含む約1万坪の敷地には、病院のほかに予防医療センター・看護大学・チャペルがあり、隣接するSLタワーにはフィットネスクラブ・ケアレジデンス、またオフィスビルには調剤薬局や医療福祉関連施設が入っている。つまり、ヘルスケアフローがそっくり敷地内にあるということだ。この環境下、次に展開されるべき病院経営のあり方とは何だろうか、と考えたのが『病院経営ニューパラダイム』である。

病院経営ニューパラダイム

 Healthcare Service(病院)の最終的に目指すものはCustomer's Satisfaction (CS=患者さんの満足)である。そのために、まず求めなくてはならないのがVALUE。VALUEとは、分母をコスト、分子を患者が受け取ったサービスと考えて得られる値。つまり、コストを削減し、サービスを改善していくことによってVALUEが生み出されていくわけだが、この当たり前のことが、最近になってやっと認識されてきたのではなかろうか。
 しかし、現実の病院環境にはこのVALUE達成を阻む、目に見えないバリアが存在していることも確かである。旧態依然の組織風土もその1つ。このバリアを打ち破り、病院を役割によって結ばれた機能的な組織集団にするためには、MISSION(病院の設立の理念、社会的使命)を明らかにしていくこと、そして職員のGUTS(やる気)を引き出していくことが必要となってくるだろう。具体的には、賃金制度や就業時間の見直しなど、就業環境の整備が大きな課題だ。
 さらに、このVALUEは、継続的に生み出されなくてはならない。そして、Quality Assurance(病院における質の保証)を達成しなくてはならないわけだが、それにはまた、病院機能評価機構のスタンダードや、将来さらに求められるであろうグローバルスタンダードのクリアといったバリアが生まれてくる。それを打ち破るためには、Total Quality Managementに病院全体が取り組み、職場ではQCチーム、QCサークル活動を展開することが必要となるだろう。そして、最終的にCS(患者さんの満足)というゴールに向かうわけだが、ここで生じる患者さんの要望・意見・苦情に的確に応えられなくてはバリアはクリアできない。ここで、一般企業におけるサービスマネジメントという概念と、スタッフの教育研修が必要になってくるのである。
 この全てを現場で実践するのは容易なことではない。しかし、患者さんに焦点を合わせたCSという同一の目的に向けて、全てのスタッフがそれぞれの役割と機能を果たすことこそ病院の本質的姿であり、これから向かうべき方向であると考えている。

ニューパラダイム実現への3つの提案

 ヘルスケアサービスへ向けての変革の動きの中で、病院は今、合理化・効率化を求められている。具体的には、業務委託・外注化があるが、この流れはやがて、分社化、子会社設立、そして最終的には病院管理会社ができて医経分離へ。さらにサービス化・企業化が進んで、アメリカで行われているようなヘルスケア・サービスになっていくのではなかろうか。
 聖路加国際病院には『聖路加サービスセンター』という子会社があり、現場サービス部門やレストラン・売店・理髪の経営、レンタル、冠婚葬祭、駐車場、損保代理業などを行っている。病院の経営本体をスリム化し、経営安定に向けて貢献しようという試みの1つである。
 さらに、現在考えているサービス改善の構想に『会員制健康クラブ』がある。会員のために健康教室やイベントを企画運営するほか、民間保険会社と提携し、公的保険外でより快適なサービス(年1回の人間ドック、部屋代差額の負担、受診時の各科案内、医療・保健・福祉情報サービスと施設紹介など)を提供するものである。これを、先に述べた病院周辺の環境を活かして行う。会員数3万人規模のものができれば、病院側の経営の安定化に貢献できることはもちろん、イメージアップ、サービスの充実といったメリットが得られるのではなかろうか。
 そして最終的に必要になるのは、スタッフの意識改革、教育研修である。社会・環境の変化に伴って、研修方法も変えていくべき。講師はインストラクターではなく、アドバイザーとしての資質が問われているし、リーダーシップも上からの力任せのものでなく、上下ツーウェイのコミュニケーションの中での状況対応が問われる時代である。このような認識の上で、さらに時代の先を見据えた教育研修が行われなくてはならない。
 結局何においても、方向、焦点の行先は、アメリカ型のマネージドケアにあるのではなかろうか。効率性・患者中心のサービス・情報の中央化・結果主義・退院後まで一貫したケア・恒常的な高いレベルの診療上のガイドライン・標準化された運用基準。このようなマネジメントケアの原理原則が、まさに今、日本の病院にも求められているのである。
 
 
 

〔講演・〕
『日本の医療制度の行方』
衆議院議員 熊代昭彦氏

 9月の健康保険法一部改正法施行、さらに医療保険制度改革が審議され、徐々に将来の医療・福祉の姿が見えはじめている。その行方はどうなるのか。厚生省医療保険担当審議官、大臣官房総務審議官、社会援護局長などを歴任された後、平成5年、衆議院議員当選。社会部会副部会長等として医療政策に関わってこられ、現在は第2次橋本改造内閣において総務政務次官としてご活躍中の熊代昭彦氏は次のように述べられた。
 この勉強会では、平成9年8月、与党医療保険制度改革協議会より出された『21世紀の国民医療〜良質な医療と皆保険制度確保への指針〜』の全文を公開していただくこととなった。

安心で良質な医療提供体制の確保を

 この指針は、9月の健康保険法改正の施行に先立ち、単に国民に負担を求めるだけでなく、医療資源の効率化も図らねばならないという観点から、医療提供体制と医療保険制度両面からの抜本的改革が必要であるとし、今後の国民医療のあり方について基本的な方向性を提示し、国民に理解を求めるためのものである。
 この指針の策定に当たっては、
 ●医療における情報公開の推進と透明性の確保
 ●医療提供体制、薬価制度、診療報酬体系を抜本的に見直す
 ●少子高齢社会を迎え、すべての国民が公平に高齢者医療費を支える制度の確立と、生  涯を通しての総合的な国民医療の実現
を目指すものとしている。
 医療保険制度の新たな患者負担は、これらの抜本的改革の成果を見極めつつ検討する形となった。

国民に開かれた医療提供の実現

 まず、患者の立場に立った医療を行うためのインフォームド・コンセントの徹底。また、カルテ・レセプトの開示、医療明細書の発行などを推進する。広告の規制緩和を図り、情報公開を推進。保険者機能も強化し、レセプト審査などの充実を図る。被保険者証に代わってICカードを作り、医療情報システムを整備。医療機関の機能を分化し、連携を推進する。これには救急医療体制の整備充実も含まれる。また病床数の適正化を推進し、基準を急性期病床、慢性期病床それぞれについて定める。在宅医療、訪問看護などの整備。医療従事者の資質の向上のために、医学教育や生涯教育の充実を図るとともに、卒後の臨床研修を必修化する。教育体制の見直し、国家試験の見直しも行う。さらに、現在の各種保健事業を、予防医学を重視しつつ、生涯を通じての総合的なシステムに再構築する。

薬価制度の改革

 薬価差を原資とする医療経営から脱却し、技術中心の医療に変えるため、現行の薬価基準制度を廃止、給付基準額制度を導入する。
 新制度に必要な情報は全て公開し、承認審査体制を整備する。また、医薬分業を推進するための計画の策定、受け入れ体制の整備、薬剤師の資質向上のための取り組みを強化する。

新しい診療報酬体系の構築

 技術料については、診療科の特性と技術の難易度、看護の必要度をふまえた評価とする。医療材料価格や検査価格などの適正化、透明化を図るとともに、内外価格差の是正を行う。設備投資・維持管理費については、地域格差を反映させた評価を行う。また、大病院は入院機能、中小病院や診療所は、外来はプライマリー・ケア、入院は病院・診療科の特色のあるものというように、機能に応じた評価をする。
 また、急性期・慢性期医療に応じた評価もそれぞれに行う。歯科医療は出来高払いが原則(定型的な部分は定額払い)。レセプト電算処理を推進するとともに、診療報酬点数表の簡素化を図る。

高齢者医療保険制度の創設

 少子高齢社会において、低所得者には配慮しながらも、高齢者にも相応の負担を求めて行かざるを得ないという状況をふまえ、高齢者を対象とした独立した保険制度を創設する。対象者は原則70歳以上、高齢者自身の負担のほか、公費負担、世代間連帯の観点からの若年世代の負担を求める。制度の創設に当たっては、国保制度のあり方について見直すこととし、引き続き検討する。なお、中長期的に介護保険制度との一元化も視野に入れる。保険者のあり方などについては、今後引き続き検討する。

医療費適正化の推進

 国民医療費は増加の一途をたどり、今や27兆円に達している。今後もさらに増大することが見込まれ、国民が医療に対するコスト意識を持つことが求められている。現在、1人当たり医療費が若年世代の約5倍である老人医療費の思い切った適正化を行い、同時に医療費の無駄や非効率を解消するため医療費審査の充実や指導監査の強化、地域格差の是正、現金給付の見直しを行う。これらの抜本的改革は、平成12年の実施を目途としているが、可能なものからできるだけ速やかに実施する方針である。
 

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