第六回研究会 記録誌


 
ホスピタルマネジメント研究会第6回勉強会記録誌 1998年2月21日

〔講演・〕
『これからの社会保障と医療保険制度のゆくえ』
仙台白百合女子大学人間学部人間生活学科教授 高木安雄氏

〔講演・〕
『永生病院における経営改革の試みと今後の病院経営』
医療法人社団永生会・永生病院 理事長・院長 安藤高朗氏
 
 

〔講演・〕
『これからの社会保障と医療保険制度のゆくえ』
仙台白百合女子大学人間学部人間生活学科教授 高木安雄氏

 仙台白百合女子大学人間学部人間生活学科教授 高木安雄氏は、介護保険も診療報酬改定も大きな社会保障改革の中で動いていく今日、出来高払い制と定額制の比較など、社会保障制度全体からみた医療保険改革のポイントを述べた。

社会保障制度の全体経緯

 社会保障は1950年の社会保障制度審議会の勧告から始まった。母子保健に始まり、年金、医療、児童福祉などライフサイクルの中で起こるすべての事故・病気・障害・貧困などに対応するシステムを目指している。具体的にどういう制度を作ってきたか。このことは日本の戦後史を示している。1947年に児童福祉法から始まるが、国民皆年金、皆保険という社会保険方式による社会保障システムの成立は1961年と遅い。当初、税金を軸に福祉制度や公衆衛生サービスを整え、世の中が一定レベルの経済力を保持し、落ちついてから皆年金、皆保険に到達したわけである。以後、国民皆保険・皆年金は日本の社会保障の柱となってきたが、現在、社会保障の体系の問題と各制度の抱える問題が議論されている。
 介護保険制度は、社会保険方式ですすめる内容であり、年金、医療保険、児童手当に次ぐひさびさの社会保険制度になるが、税法式でいくのか、保険方式でいくのか、介護保険の発足は日本の社会保障制度の大きな転換点となっている。
 老人福祉法は1963年、福祉関連の立法の中で最後にできたものであり、老人医療費無料化は1972年に成立した。この老人医療費の無料化は、日本の社会保障の中で大きな転換点であったと思う。それは、高齢者のQOLに関わる多様なサービスというよりも、医療のみで高齢者のニーズを満足させるというシステムができてしまった、ということである。現在、多剤投与とか長期入院など問題が起こっているが、しかし、老人に対応する他のサービスのシステムがない限り、高齢者が医療に頼るのは仕方がないといえる。1973年から10年間、老人医療費無料化は続くが、1983年から老人保健制度が生まれる。結局、ひとたび無料にすると、有料にかえるのに大変な時間がかかるのであり、老人一部負担を定率化するまでには、さらに15年、20年かかる。逆にいうと、厚生省の政策の先読みをするのは非常に難しいといえる。それだけ社会保障の改革は時間がかかるのであり、国民生活に深く浸透している分だけ、急激な変革には抵抗も大きく、厚生省が慎重になるのは当然である。
  しかし、ライフサイクルの変化は激しい。女性の結婚年齢は遅くなり、子どもの数は、5人、4人、2人と減っている。戦前は、たとえば夫引退55歳、死亡は60〜61歳。現在は、夫引退65歳、夫死亡77歳。大変なライフサイクルの変動であるが、社会保障制度は、以前のライフサイクルを前提にしたまま構成されており、それに対応した改革も今後の課題となってくる。
  同時に、これからの社会保障の考え方としては、保険料でいくのか、患者負担でいくのか、税金でいくのかという社会連帯のための財源調達の問題がある。国民負担はアメリカが36%、日本が37%、スウェーデンが70%であり、スウェーデンのように国民が稼いだものの7割を政府を通じて配分するのか、日本のように政府には37%で、残りを企業と家計がもらう形で配分するのか。ここが今、社会保障制度が迎えている最大のターニングポイントである。

出来高払い制と定額制

 高度経済成長以来、国民医療費と国民所得は伸び続けてきたが、来年度初めて国民医療費がマイナス 1.1%になると推計されている。推計通りになったとすると、これは非常に画期的なことである。こういう厳しい時代において、公的保険としてどこに集中してお金を投入するべきか議論になろう。
 今までの診療報酬システム(=出来高払い制)の特徴は、簡単にいうと高度先進医療は冷遇され、プライマリーケアを優遇する診療報酬体系である。開業医と大学病院では開業医を優遇し、入院よりも外来を評価する。多くのスタッフ、資金を必要とする高度先進技術はあまり評価せずに、薬と診察で外来を行うサービスを高めに評価する体系を作ってきた。人を雇うと損をするので、多くの医療・看護スタッフを抱えられるのは公立病院のみとなる。だから民間病院は付き添い看護に逃げていた。
 もう1つの特徴は、患者のアメニティ部分を評価しないということであった。 4.3╂の狭い病室で患者にがまんを強いていたわけで、1960年当時、快適な療養環境などを評価したら、予算が足りなかったからである。
  現在、この体系がネックになっていろいろな議論が起こっているが、これまでは医療供給を私的医療機関の活力にかなり任せることで、出来高払い制のメリットを十分に生かし、国民皆保険を定着させてきたといえる。
  しかし、定額制が老人保健施設などで導入されている。診療・看護以外の生活サービスの部分はすべて有料にし、直接的に利用料の契約をして、個人負担をとっているが、これが医療保険にも波及して、自由に報酬がとれるという風穴を開けることになるのだろうか。
 ただし、定額制の採用にも問題点は多い。まず医療費の抑制を促すという期待があるが、定額の水準の設定によっては高値安定ということになりかねない。医療の質の確保・向上を図る対策をとらないと粗診粗療、患者選別・重症者の受け入れ拒否という問題も起きかねない。また医療供給のためのインフラ整備に必要な資金を別ルートで流さなければならず、保険者はそこまで担うことができるかどうか。今後、保険者側、病院側、患者側で医療の質の向上と財源投入のシステムについて主体的に考えていかなければならない。

今回の診療報酬改定のポイント

 本年4月からの診療報酬改定におけるポイントの1つは、高度医療施設の限定といえる。高度医療施設・技術を一定の回数以上運用できる病院、それだけの体制整備をしている病院にしか認定しないという項目だが、これは非常に影響が大きいと思っている。メーカー主導による診療材料等の過剰販売と価格高騰を是正するという目的だろうが、そうすると、たとえば今まで年間数件でも心臓バイパス手術をしていた病院では手術ができなくなり、患者は遠方の病院にまでいかざるを得なくなる。東京近郊ではさほど問題にはならないだろうが、医療供給の地域格差が非常に増大する。医療保険の画一・平等の建て前を足下から崩していく可能性が大きい。病院機能評価も同様であり、たとえば私の町には一つ星と二つ星の病院しかないが、隣の町には五つ星の病院が3つあるとなれば、被保険者は同一保険料負担に不満を持たないわけがない。この問題点は強調しておきたい〔注)フランスのレストランの味の等級を示す星印で、星の数が多いほど美味とされている〕。
 その他、老人医療費の適正化は、今まで点数設定の甘かった部分の是正であるし、医療スタッフ不足のペナルティ強化も、診療報酬を支払うほうが初めて医療の質に対してものがいえるようになった、という意味で評価できるだろう。
 いずれにしろ、医療保険・診療報酬の問題は、社会保障制度全体の大きな流れの中で考えられるべきである。ライフスタイルや経済基盤が激変し、社会連帯の仕組みも変わってきている。全国民に適正な医療を不足なく与えるにはどうしたらいいのか。医療技術に対する適正報酬は、どうやって設定するのか。研究しても簡単に結論が出てくる問題ではなく、病院の現場にいるスタッフも広い見地から考えるべきであろう。依然として保険による診療報酬に依存していていいのか。風穴を開けて自由なサービス交換、経営体制の創意工夫が生きる仕組み作りをするのか。今が医療保険制度の大きな分岐点であると思う。
 
 

〔講演・〕
『永生病院における経営改革の試みと今後の病院経営』
医療法人社団永生会・永生病院 理事長・院長 安藤高朗氏

 医療法人社団永生会・永生病院理事長・院長 安藤高朗氏は、ケアミックス型の病院がいかに地域密着の医療を目指すか、さまざまな角度から自院の病院経営改善の例を紹介した。

永生病院の概要

 高齢者医療の専門病院として東京都八王子市に1961年に設立。 '90年に一般病棟を増設。外来とリハビリテーションセンターを充実させた。一般(内科、神経内科、整形外科) 146、介護力強化 412、精神科(老人性痴呆) 216、計 774床のケアミックス病院。
 '97年に老人保健施設「イマジン」開設。入所定員 130名、デイケア40名。平均在院日数は、内科・神経内科73日、整形外科41日、介護力強化 311日、精神科 280日。

地域医療密着を目指して

  一般病棟を増設し、外来診療、リハビリテーションセンターを増設した '90年より、永生病院では経営改革、新しい病院づくりを試みている。
・患者様、ご利用者様、ご家族様、並びに地域の方々にやさしい病院、老人保健施設づくりを!
・病院、老人保健施設は地域よりお預かりするもの!
・医療はサービス業!
という永生病院の3つの理念に基づき、さまざまな施策を行っている。
●接遇面の見直し
●収支・決算の部門別精度アップ
●地域ボランティアの受け入れ
●患者満足度の向上
●職員満足度の向上
●委員会活動の活発化
などである。
 特に患者満足度については、他病院の方法などを参考に患者満足度アンケートを実施している。アンケート用紙は入院用、外来用、老健イマジン用と3種類作成。受付、医師、看護婦、薬剤師など、すべての職種別に5段階評価をしてもらう方式とした。結果は広報誌の掲載、掲示板、給与袋などにて全職員にフィードバックしている。記入してもらった意見は、テレビを置く位置の高さの変更といった細かい部分まで、対応できるものは即対応を原則としている。
 さらに職員、特に医師に対しては、個人別に一部平均点数化したものを賞与等の際に反映させている。また、患者様に対しては情報開示を原則とし、希望者には検査伝票のコピーも提供している。院長は、すでに患者様のカルテのコピーを行っているが、将来的にはカルテのコピー等を実施するよう医局で働きかけている。
 患者満足の前提となる職員満足については、教育・研修の充実、人事評価制度の見直しなどを行っている。職務能力、基準、業績考課を明らかにし、たとえば医師別の診療点数分析(前月比、前年比など)も各人に配布するなど、公正な評価を目指している。福利厚生としては、クラブ活動の充実化、近隣スポーツ施設の利用券配布、保養所契約などを行っている。
 委員会も数多く活動している。なかでもリニューアル委員会は業務改善に関する意見の採り入れを積極的に行っている。また、QC活動的な改善提案発表を行い、優秀な提案には表彰を行っている。

介護保険と療養型病床群への転換

 '97年に成立した介護保険の永生病院への影響は小さくない。2003年3月31日までの療養型病床群(完全型・移行型は2000年3月31日)への転換は、病棟等の大幅な改修・改築を伴う病院がほとんどであるが、永生病院では一般病棟の有効利用、介護力強化病棟の効果的活用を検討している。転換に関する改築、改修費用は、今後、病院としては非常に大きな負担になることは間違いない。
 行政(東京都)への要望は、
●建ぺい率、容積率、日照の規制緩和
●療養型病床群・必要病床数の二次診療圏ではなく、都道府県単位での規定
●補助金要件の緩和、大都市独自の支援策
●補助基準額の上限病床数の拡大
●施設近代化整備事業における病棟面積18平方メートル要件緩和(大都市圏独自の設定の必要性)
●老人保健施設並の補助内容の充実
●介護報酬の確保
などを積極的に行っている。
 国民、患者、医療関係者にとってベターな方策を探っていくことが必要である。
 私が常に考えていることは・・トップの役割としては、(1)方針の決定、(2)資金調達、(3)教育、の3点が重要であるということ。
 院長の役割としては、(1)1/3を診療活動に、(2)1/3を運営管理に、(3)1/3を医師会、病院会活動、院外とのコミュニケーション作りに充てられれば理想的である。
 病院経営では、(1)自分達の病院は、自分達で守ること、(2)制度・政策に関しては行政に対して言いたいことは言うこと、(3)アメリカのVHA(Voluntary Hospital of America )のような、病院のグループ化も大切であるということ。
 

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