第七回研究会 記録誌


 

ホスピタルマネジメント研究会第7回勉強会記録誌 1998年4月18日

〔講演・〕
『日本型参照価格制度はあるのか? 医療制度と薬の将来を予測する』
日本福祉大学経済学部教授・日医総研主席研究員 川渕孝一氏

〔講演・〕
『今後の医薬品の動向と病医院・調剤薬局への影響』
アポプラスステーション社長 伊藤 昭氏
 
 

〔講演・〕
『日本型参照価格制度はあるのか? 医療制度と薬の将来を予測する』
日本福祉大学経済学部教授・日医総研主席研究員 川渕孝一氏

 日本の薬価基準制度のゆくえはどうなるのか。日本型参照価格制度はあるのか。今、最大の関心事であるこの問題に対し、「解消すべき問題が薬価差であるというのなら、解決策は参照価格制度だけではない」との前提のもと、日医総研主席研究員で、日本福祉大学経済学部教授の川渕孝一氏は、財団法人医療経済研究機構によって行われた『アメリカの疾病分類、特にDRG(Diagnosis Related Group :定額制 or マルメ方式)の日本導入の可能性について』述べた。

ケースミックスを考慮した評価を

 近年の診療報酬改定のポイントは、在院日数の短縮にある。改定ごとに短くなる在院日数の基準であるが、常々思うのは、患者の属性について何も考慮されていないということである。眼科専門病院と整形外科では、在院日数を短くすることの意味は大きく異なる。にもかかわらず、すべての病院が同じ基準で審査され、日数の短い病院が診療報酬のうえで優遇されるばかりでなく、評価の面でも「いい病院」とされている。これで公正といえるだろうか。
 その病院にどのような患者さんが入っているのか、つまりケースミックスを考えた分類法がいくつかあり、その1つがDRGだ。この分類の観点は、同じような属性の患者さんに対してどれくらい医療資源を使っているか、ということである。アメリカのメディケア(65歳以上) の支払い方式に使ったため混同されがちだが、疾病分類であって支払い方式ではない。メディケアのDRGは分類数 492。これに対し、全ての患者さんを対象にしたものはAP−DRGと呼ばれ、 700近い分類数になる。

DRGのケーススタディ

 今回行った研究の対象は、北海道から沖縄まで、国立病院以外の全ての経営主体を含んだ17病院。うち11病院が臨床研修指定病院。期間は96年または96年度、データ数は 121,543、エラーは 0.6%である(病院数17という数は、国際疾病分類を行っている病院が少なかったため)。
 在院日数について分析してみよう。DRGの長所の1つは、疾病別に平均在院日数が比較できるところである。疾病ごとに各病院の平均在院日数を出し、それぞれの疾病で各病院を比較してみる。そうすると、各疾病別の期待値(全病院の平均値)が出てくる。それに比べて、自分の病院は何日長いか短いかを調べ、それに症例数をかけると延べ数が出る。さらに、どの疾病が長くてどれが短いのかを分析すると、各病院でどの疾病に対して在院日数削減の努力をすべきかが具体的に見えてくるのである。
 このように、DRGは病院のマネジメントやTQC活動の道具として使えるコーディングである。在院日数を取り上げたのは、これが最もコストのかかるものだからだが、他にも、薬剤、診療材料、検査等あらゆるものを含めて考える必要がある。一般に病院コンサルティングにおいて、これらの経費についてもケースミックスが考慮されていないのが現状である。しかし、重症と軽症では明らかにコストは違う。そこで調整を加えたうえで、個々のコストに対しての分析をさらに進めていくのが、適正なコンサルティングといえるだろう。

DRGの支払い方式への利用

 DRGは疾病をグルーピングして、それにどれくらいコストがかかっているかを相対化したものであるから、これを支払い方式に用いるためには相対係数に1点単価を乗ずる必要がある。算出の例を示したが、これは今回の調査で在院日数の多い疾病のトップ10に関するものである。ここでのナショナルベースレート(=1点単価)81万円というのは、今回の17病院のコストの平均値である。単価の設定に際しては、地域差、教育コスト(臨床研修指定病院の場合)、僻地医療など、調整を加える必要があるだろう。
 ただし、結論としてはDRGを支払い方式に使うには、よほど慎重に行わねばならないということである。今回のスタディでも、変動係数の高い疾病と低い疾病が出た。また、病院によって、DRG導入が大幅な利益増を生むところもあれば、3割ほどの減収の恐れあり、というシミュレーション結果が出たところもある。今後、さらに病院数を増やし、より幅広いケースについて分析・研究する必要があるだろう。
 
 
 

〔講演・〕
『今後の医薬品の動向と病医院・調剤薬局への影響』
アポプラスステーション社長 伊藤 昭氏

 薬価差ゼロの時代を迎えるにあたり、日本の医療機関はどのような変革を迫られているのか。アポプラスステーション社長 伊藤 昭氏は、医療費抑制策の先達、アメリカに範を取りながら、特に薬剤・薬局・薬剤師に焦点を当てた経営改革提案を行った。

アメリカ医療業界の現況

 アメリカで医療費抑制策が始まったのは '70年代の終わり頃からである。 '75年施行のMAC(メディケア・メディケイドに対する薬の天井価格)、 '70年代後半から広く採用されたSubstitution Law(医師の書いた処方箋でも、ある条件が揃えば医師の同意なしに薬をジェネリックに切り替える権限を薬剤師に与えたもの)、ANDA(パテントの有効期間にロス期間の回復を認めると同時に、一部ジェネリックの許可手続きを簡単にしたもの)、オレンジブック(ジェネリック薬品をFDAが品質保証した本)、さらに '83年施行のDRGなど。これらの法律により医療機関自身の経営合理化も進み、さまざまなシステム改革が成果をあげてきた。院内処方、薬剤師による病棟業務(薬剤管理指導)、薬剤の共同購入などは民間医療機関でも定着し、現在は強化の段階にある。
 院内使用医薬品集はアメリカでは古くから行われているが、現在は、さらにGeneric Substitutionという方式が、ほぼすべての病院で実施されている。あるジェネリック医薬品が市場に出た場合、院内のP&T委員会(新薬採用検討委員会)が品質に関する検討を行い、先発品との生物学的同等性などを確認し、承認したうえでリストに掲載する。その中で、より安価な薬が購入され処方されるのである。従って、医師がブランド名で処方しても、院内処方にジェネリックがあればそれにスイッチされる。さらに、異種同効薬間のスイッチも薬剤師の判断で行うTherapeutic Substitutionというシステムも、約50%の病院で行われている。
 また、P&T委員会は定期的に集まり、院内で行われた処方記録に対し、必要性、妥当性、経済性などをふまえたうえで、どの処方が最も効率的であるかを検討する。その結果は医師へフィードバックされる。

薬剤師は医療と経営の大きな戦力

 今、大きな曲がり角に来ている日本の医療が、アメリカに学ぶところは大きい。殊に、ここ1〜2年で薬価差がゼロになると思われるが、たとえ差益がゼロになっても、医療における薬物治療が中心的存在であることに変わりはない。この状況下で利益を生み出すためには、薬とそれを直接扱う薬剤師に対する認識を変えていかなければならない。薬剤師を、医療の現場にも経営にも、積極的に活用する必要があるということだ。
 アメリカでは、薬剤師は『倫理観が強くて国民に信頼される職能人のベスト26』(ギャラップ社調べ)で9年連続して1位に輝く職業である。これに対し、われわれが実施した薬剤師のイメージ調査では、1位「忙しそう」、2位「事務的」、3位「無愛想」、4位「暗い」となっている。この違いは何なのか。
 従来の病院薬剤師は、業務の75%を外来の調剤に忙殺され、患者さんだけでなく、院内の他の医療スタッフとさえ関わることがなかった。ガラス張りの箱の中から出ない、錠剤のピッキングマシーンの様相である。しかし、薬剤師はマシーンではなく、医療と経営に貢献できる職能集団なのである。まず、チーム医療の一員として、臨床の現場に薬剤師のヘッドワークを取り入れることが何より重要であろう。薬剤選択、投与デザイン、TDM、注射の配合、ベッドサイドの与薬、患者指導などは、薬剤師のプロフェッションが最も活かされるべき場である。看護婦ではなかなか見つけられない副作用などは、薬剤師がベッドサイドへ足を運んで見つけるべきもの。また、近年国民の薬剤に対する知的欲求は驚くほど高まっており、サービス業としての病院で、これに対応するのはプロである薬剤師であるべきだ。これらの「 900点業務」は、薬剤師1人当たりの入院患者を50人/月として、45万円の経営貢献になる。
 さらに、1100点業務、すなわち在宅医療管理指導料も大きな戦力となるだろう。退院が早くなれば、自宅での注射、抗ガン剤の投与など、在宅医療での薬剤師の役割は増え、重要性も増す。だからこその指導料である。介護保険も含めて、これからの病院経営の中で在宅医療は大きな割合を占めてくる。これにどう関わっていくか、また薬剤師をどう活かすかがキーとなってくるだろう。
 在宅医療では、門前薬局と連携した地域に根差した活動もポイントになる。将来、医薬分業が進み、また人頭払制の導入ということになれば、診療機関の医療圏 500メートルの中で「病気になったら来て下さい」という時代ではなくなる。門前薬局も院内投薬と同じことをしていたのでは生き残れない。病院と門前薬局は運命共同体だ。健康な時から配置薬を置くなどして患者を組織化し、医療機関自らがセルフメディケーションに加担するくらいの姿勢で打って出ることは必要になるだろう。
 前述のアメリカの薬剤師のイメージは、町の薬局の薬剤師のイメージであるという。医薬分業が著しく進んでいるアメリカでは、医薬品の85%が薬局から供給されているからだ。彼らが情報提供をし、相談に乗り、厚い信頼を得ている。それが高い評価につながっているというのだ。医薬分業は日本でもめざましく進んでいる。日本の薬剤師が、1日も早く地域の信頼を勝ち得ることを望みたい。

求められる意識改革

 むろん、今の状態のままで薬剤師に情報提供や指導の業務を要求しても無理がある。能書は年に5〜6千回変わっているのだ。教育投資をし、DI専属の薬剤師を置いて、情報の収集、メンテナンス、医師・看護婦への伝達などをしっかりとシステム化する必要がある。記録の管理、処方の検討なども同様。薬物相互作用、重複投与などのチェック機能があるかどうか。これはカルテ開示への対応とも関連する問題だ。事故が起こってからの経費よりも、情報環境整備にかける経費のほうがはるかに安い。積極的にリスクマネジメントに力を注いでいただきたい。
 また、薬剤師にコスト意識を植えつけることも必要だ。薬剤師1人当たりの経費は1日2万円。薬価差益ゼロの状況下で、自分の給料を自分で稼ぐには何をしたらいいのか。院内全体の問題として、スタッフ全員が経営に参画しなければならない時代である。一般病院でも医師・看護婦も含めた委員会を作り、同じ効果でいかに安い薬を導入するか、院内フォーミュラリー作りに取り組むべきだ。そこではジェネリック医薬品に対するアレルギーは払拭すべきである。同等で安価な医薬品をもっと使うべきだと思う。導入の際は、薬剤師による品質試験も、薬剤師会での定量分析も可能である。レベルの高いジェネリックメーカーはいくらでもあるのだから、自ら品質を調査・確認したうえ、積極的に導入すべきである。
 ちなみに、アメリカでは全処方薬の50%がジェネリックである。ジェネリック品といえども、自由主義経済のもと、市場を勝ち抜いたものが生き残っているのだから、販売力、品質、価格など、すべての面で優れているのは当然である。

病院給食にも新たな展開を

 院外調理についても、アメリカに注目すべき例がある。コダック社では、1日4万食(朝・昼・晩・深夜食)をセントラルキッチンで作り、配送している。スタッフは完全週休2日制、週35時間労働で28名。サテライトキッチンでは、再加熱して盛り付けるだけ。この方式を病院給食に取り入れれば、オペレーションコストは従来の2割ですむようになる。現在、鳥取県米子市にセントラルキッチンを作り、このシステムを実施中である。病院給食革命になることは間違いないだろう。是非とも見学されたい。
 

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