第九回研究会 記録誌


 
ホスピタルマネジメント研究会第9回勉強会記録誌 1998年8月29日

〔講演・〕
『ネットワーク医療の勧め・パソコンLANがチーム医療を実現する』
医療法人社団発心会 姫野病院理事長・院長 姫野信吉氏

〔講演・〕
『アメニティーと病院建築』
国立医療・病院管理研究所施設計画研究部 施設環境評価研究室長 筧 淳夫氏
 
 

〔講演・〕
『ネットワーク医療の勧め・パソコンLANがチーム医療を実現する』
医療法人社団発心会 姫野病院理事長・院長 姫野信吉氏

 姫野氏が理事長・院長を務める医療法人社団発心会姫野病院(福岡県八女郡広川町、 140床)は、高度情報技術を駆使した大胆な経営改革で知られる整形外科専門病院である。3年半ほど前から院内LAN(院内情報通信網)を構築、職員1人に1台、約 120台のパソコンを配備し、事務業務のみならず、メディカル系業務もすべて電子化されている。本勉強会では、同病院が過去1年に蓄積したデータを用い、実際に画面上で操作方法を示しながら、パソコンネットによる院内コミュニケーションの実際とその効用について講演いただいた。

電子カルテのメリット

 当院では、カルテはすべて電子化している。1人の患者様につき1ID、1データベースで、その患者様に関する情報はすべてデータベース中に蓄積されている。カルテは「カレンダービュー」と呼ばれる時間軸に沿った表示で、日付順、時間順に発生した医療上の記録がすべて配列されている。これは過去・未来、どちらへも連続的にスライドさせて見ることができるし、カテゴリー(看護・リハビリなど)別に見ることも可能だ。外来診療と入院診療の区別はなく、すべての記録がシームレスに統合されている。
 このカルテは、病院内の医療職全員が見ることができるので、医師の治療方針・看護計画・リハビリ計画などは各自が端末で開いて確認、カンファレンスでいちいち集まったり、病棟やリハビリ室まで出向く必要がなくなった。手術の場合も、予め病棟で入力された情報をオペ室で読み出して準備しておき、術中の記録はその場で看護婦がコンピュータに入力したものをICU室が前もって読み出し、受け入れ体制を整えておく。これにより、口頭による申し送りは必要最低限の短いものとなった。
 カルテの作成にも、筆記以上のスピードが求められる。通常、1人の患者様につき50〜60の指示が必要だが、これらは目的別(ADL、院内臨床検査、看護計画、注射、薬剤、リハビリ、レントゲン、食事など)にフォームが決まっており、その中から必要なものにチェックを入れて選択していく。最終的な画面には選択した指示だけが残り、必要な場合はワープロ入力で自由に追記や修正をすることができる。
 さらに、クリティカルパスにおいて、患者様に合併症がある場合やスケジュールに変更があった場合、紙で行うより格段に柔軟かつ迅速な対応ができるというメリットもある。

情報の電子化で業務の贅肉をそぎ落とす

 どの病院でも、看護婦が出勤してまずやらなければいけない仕事は、医師指示録をもとにその日の患者様への指示リストを作ることだろう。しかし、インターバルがバラバラの指示を最初から確認していく作業は大変な労働で、当然時間がかかり、残業が発生する。ところがこのシステムだと、カルテを開いた途端に今日やるべきことがわかる。
 また、グループデータベースという処理で、病棟ごとにデータをまとめることができるので、1病棟の入院患者すべての関連指示を集約し、表記することができる。指示には、それぞれに印がついており、未処理のものは緑、実施され実施報告書が入ったものから赤に変わるようになっている(報告書には実施者と時間が記録される)。看護婦は、これを見ながら無駄なく円滑に業務を進めるというわけだ。これによって指示の二重実施や実施漏れがなくなったばかりでなく、指示リスト作成のロス削減とあわせて、残業代をかなりカットすることができた。

情報の共有化で医療水準の向上を

 今、チーム医療ということがさかんにいわれている。各々の職種が職能を最大限に発揮し合う医療はむろんあるべき姿であるが、「言うは易し」、実際にやってみると、情報が共有化されていなくてはチーム医療は成り立たない。しかし、カンファレンスをいちいち設けるのは時間的にかなりのロスがある。「どうなっているのかな」と思った時、3秒以内にアクセスできる環境が必要なのである。今後、情報の電子化の普及によってこの問題が解決され、チーム医療が本物になれば、医療のレベルは驚異的に上がるに違いない。
 情報の共有化には、患者様も含まれる。当院では、十分なセキュリティが得られることを確認したうえで、さる9月よりインターネットのホームページを通じて電子カルテの開示を開始。院内で、医師や看護婦が実際に使っている電子カルテを、いっさい手を加えず、そのままの形で開示する。院内に自由に使える端末を配置しているが、外部からでも患者カードのID番号でアクセスすることができる。現在行われている治療行為に、患者様がリアルタイムで参加することができ、それでいて医療上の行動には何の制限もない。カルテの開示には一番いい形なのではないだろうか。
 情報の共有化は医療機関同士でも行われるべきだ。紹介状などで1冊のカルテを1枚の紙にまとめるよりも、患者様の合意の証としてのパスワードのもと、電子カルテの情報をすべて渡したほうがいいのは自明の理である。
 この医療機関間のネットワークがさらに広がって、過去の診療記録や検査データが共有され、かつ反復利用され、また活発に意見交換がなされることによって新たな知見が生み出されていけば、日本の医療水準はさらに大きな飛躍を遂げることになるだろう。

コミュニケーションツールとしての院内LAN

 実は、当院が院内LANを導入した最初の目的は業務報告書であった。毎日の業務報告をLAN上で始めたのだが、現在では、院内の業務上の打ち合わせ、連絡、報告、通知、申請、意見交換、また薬品や医療器材の受発注など、すべて電子メールとグループウェアと呼ばれる共有化文書データベースで行っており、紙による通知や事務作業、定例会議などはほとんどなくなった。回覧板や電子会議と呼ばれるこのデータベースは、それぞれ特定の個人やグループに権限を割り当てることができ、全員が参加できるもの、理事会メンバーだけが見られるもの、マネージャーだけが返答文書を書き込めるものなど、いろいろな設定で開かれている。
 多人数が交代勤務で働く病院という場で、このコミュニケーション手段は確実かつ迅速、また大量の情報を処理できて時間と場所の制約がないという意味で非常に有効である。
 病院内の情報化を行う際、留意していただきたいのはこの点で、オーダリングという観点からシステムを構築すると、一方向の指示しかできず、双方向からのネットワーク参加が不可能になるおそれがある。実際に病院内を流れる情報のうち、オーダーの占める割合はせいぜい1割以下。残りの9割は通知や連絡や打ち合わせなどだ。オーダリングから始めるのではなく、「内部のコミュニケーションの道具」という視点から出発されることをお勧めしたい。
 
 

〔講演・〕
『アメニティーと病院建築』
国立医療・病院管理研究所施設計画研究部 施設環境評価研究室長 筧 淳夫氏

 アメニティーとは、「そこにいる者の生活を向上させるもの」である。患者だけでなく、そこで働くスタッフを含めたすべての人の環境と生活がサポートされていなくてはならない……という前提のもと、これからの病院建築とアメニティーはいかにあるべきかを、スライドにより数多くの実例を紹介しながら語った。

21世紀の病院計画とは

 18世紀までの病院は、被病集団を社会から隔離する場であった。19世紀、技術の進歩とともに衛生的な環境で個人が治療を受ける場へ。そして20世紀、医療は延命長寿・病巣除去を目的とするようになり、診療・検査部門は増大、病院建築も高価なものへと変わる。いずれの時代も、病院は「収容」、「非日常」というイメージの強いものだった。21世紀、病院はどう変わっていくのか。高齢社会を迎え、そこには「病と付き合う」、「非収容」、「日常」といったキーワードが浮かんでくるようだ。これからの病院建築には、このような医療と時代の流れをにらんだ計画が必要となってくるだろう。
 病院は、「不規則な成長と変化をとげる建物」である。さまざまな部門が独立して発展できるように作られていなくてはならない。よって、その建築計画は、成長した有機体(完成形)の計画ではなく、成長する有機体の計画でなくてはならない。個々に成長するのに適した配置が必要であるし、面積が広げやすい、レイアウトを変えやすい、改修がしやすい、設備の更新がしやすいといった配慮が必要であるところが、学校やオフィスビルといった他の建築物とは全く異なる病院の特殊性であり、また、これが病院建築計画の際の最も基礎となるところなのである。

病室計画はどうあるべきか

 病室は、治療の場であると同時に、患者さんが病を治す過程を通じて日常生活を営む場である。これが病室計画において、最も忘れられてはならない点だ。具体的なポイントは以下のとおり。
1.ベッドまわりのスペースの充実
2.基本的生活行為の保証
3.多様な病室計画
4.分散便所・各室便所の計画
5.清潔管理・院内感染対策、院内事故対策
 ことにベッドまわりのスペースは、十分でないところが多いのが現状。治療・看護・介護領域、生活領域、どの面から考えても、スペースはアメニティーやサービスではなく、医療施設としての必要要件である。十分な配慮が望まれる。
●廊下の計画
 医療用材料をナースステーションで一括管理すると、ナースの動線は非常に長くなる。廊下の壁面に収納場所を確保し、看護拠点を分散配置するのも、1つの手である。
 廊下を、患者の生活の安らぎに利用することもできる。一角にちょっと休めるスペースを作ることで、患者さんは休息するだけでなく、窓外や病棟の中の情景を眺めることができる。病棟の中には「佇む場所」が必要だ。
 また、日本の病院は東西に廊下が伸びているケースが多く、窓の位置によっては非常に光の状態が悪いところが多い。採光にも工夫が必要である。
●便所の計画
 麻痺の状態、立位の可、不可、介護者の有無……患者さんの状態によって、ブースの大きさ、扉の種類、水栓やナースコールの位置、手すりの位置など、しつらえのあり方が変わってくるため、便所の計画は非常に難しい。それぞれの病院の特色をふまえ、介護者やPTの意見を反映させながら、最も適した方法を模索していくことが必要だ。1種類のタイプで統一するのではなく、何種類か設けておくことも有効な手だろう。
●入浴施設の計画
 浴槽には、家庭用浴槽、大浴槽、車椅子用浴槽、リフト付き浴槽、介助浴槽とさまざまな種類があるが、これらは入浴の目的によって選択されなくてはならない。入浴の目的には「身体の清潔保持」、「気分転換」などがあるが、療養型病床群の場合は、「家庭復帰のリハビリ」という目的も入ってくる。ここでは、介助浴槽は何の意味も持たなくなってしまうのだ。浴室も、病院の特性を十分考慮すべき設備の1つだ。
●病棟内食堂の計画
 食堂は、その利用率と必要面積を考えなくてはならない。急性期病院の場合、利用率は他より低いであろうし、車椅子の患者の多い病院では、1人あたりの必要面積は通常より広くなる(歩行者の場合:約 1.3╂、車椅子の場合: 2.0〜 2.5╂)。病院の状態をよく調査することが必要だ。
 また、食堂の照明はテーブルの上に対応して設置されるべきだが、そうなっていないところが多いのも問題だ。やはり「食事をするところ」という雰囲気づくりは、大切な要素といえるだろう。

病院の災害対策

●院内事故
 災害には非常時の災害と平常時の災害があるが、病院で問題になるのは平常時の災害であろう。平成6年の人口動態調査で、次のような結果が出ている。
・不慮の事故死(住宅内)
         …… 7,324名
   (うち高齢者…… 7,017名) 
・不慮の墜落死(約7割が高齢者)
       住宅…… 1,621名
     収容施設……   382名
・交通事故死……………13,712名
   (うち高齢者…… 4,296名)
 これをリスクに直すと、人口10万人あたりの死亡者数は、総数の場合、住宅で 1.3人、収容施設14.8人であるのに対し、高齢者の場合、住宅で6人、収容施設で22.2人となる。これは死亡者の数であるが、日常的に事故による骨折や怪我はさらに多いはずだ。もともと事故を起こしやすい状態の人を収容しているという条件はあるが、それは当然であるうえ、看護・介護の専門家を擁する施設であることを考えれば、これは一考を要する大きな問題であるといえよう。
●地震
  震災対策では、(1)水の確保、(2)エネルギーの確保、(3)電気の確保が重要だといわれるが、阪神大震災後のアンケートによると、医療施設で損壊の影響の大きかったのは、手術室・スプリンクラー・給水管・人工透析・受水槽など、水に関係のある施設や設備だったという。震災時、病院はいかにして水を確保するかが問題になるということだ。病院の受水槽は、最も条件の悪い時でも患者1人あたり 100・程度、スタッフを含めると50・程度の水を貯えている。この受水槽の水を死守するためには・・
・高架水槽でない地上か地下の水槽
・アンカーを打っておく
・壊れにくい受水槽を選ぶ
・パイプなどとの繋ぎの部分を可動にしておく
・センサーをつけて、揺れを感じたらシャッターが下りるようにしておく
などの対策が必要である。
 

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